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プロローグ

怪異(お化け)の男性主人公と人間の女性主人公のダブル主人公ホラーモノです。

怪異が関わる事件に巻き込まれた二人が力を合わせて解決していくお話になります。


 我々が住む世界は飽和している。そういう風に考える人間は多いだろう。

 事実、科学の発展と情報ツールの普及により、世界の謎は日に日に解明されている。心霊、オカルトの類は幻聴や幻覚、或いは自然現象として科学的に定義されてしまった。

 しかし、我々の世界のすぐ隣には未知の世界が並走している。自覚がないか本能的に避けているだけなのだ。


日常の中には必ず非日常が存在している。

 今もまた、一体の人形が器用に球体関節を動かしてひとりでに動いていた。


『わたし、メリー。今ゴミ捨て場にいるの』


「あ? 誰だよ、架空請求の方がまだマシだぜ」


 ガチャリ。ツー……ツー……。


 折角電話したのに無造作に切られてしまった。相手に不愛想な対応をされても電話をかけた本人は動じなかった。相手が切るのは分かっていた。それでも若手の営業電話さながらに彼女はめげずにもう一度相手に電話をかける。

 数度のコールの後、もしもしと不機嫌な応答が聞こえてくる。


『わたし、メリー。今あなたのお気に入りのコンビニにいるわ』


「おいおい、いたずら電話か? 今どきメリーさんなんて流行らねーよ!」


 既に正体は露見していた。電話をかけている愛らしい少女は特段驚いた様子もなく手鏡で綺麗な金髪を整えると、再び携帯電話を手に取った。


都市伝説の一つ、『メリーさんからの電話』は既に有名になりすぎている。オカルトに詳しくない一般人の間でもその存在を知らない者の方が珍しいだろう。捨てられた人形が主に電話をかけて復讐に来るという物語からはじまり、人形を大事にしない人の元に遺棄品を代表して現れるという怪異に変貌していった。彼女は今日も人形を捨てた人間に罰を与えるために電話をかけて訪問を予告していたのだ。


だが知られ過ぎた都市伝説は時に致命的になる。通話相手に悪戯電話だと判断されてしまうのだ。相手の口調から本物なんている訳がないと高を括っているのが分かる。人形の怪異メリーは対象の男から僅かに感じた恐怖を見逃さなかった。感情の籠らない機械的な口調で再度電話をかけて淡々と告げる。


『わたし、メリー。今あなたの家の前にいるわ』


 少しずつ相手の恐怖を煽っていくと遂に男が悲鳴を上げた。電話して現在地を知らせながら近づく行為は単純に見えて一人暮らしの人間にとっては怖ろしいのだ。連絡手段である電話が不審人物と繋がりかねないため、安易に誰かに助けを求めることもできない。応答する人間は次第に追い詰められていくのである。今日の電話の相手はフリーターの成人男性だ。彼は大事に使っていたはずの人形を最近捨てたので、メリーからの復讐の標的にされたのだ。


「わたし、メリー。今あなたの部屋の前にいるわ」


 もう返答はなかった。昔の人は家電から電話に出ることが多かったが、携帯電話を保持するのがステータスの現代には部屋の前で一呼吸置くことができる。恐怖の最後の仕上げである。あとは電話をかけつつ扉を開けるだけだ。


『わたし、メリー。……今あなたの……ってあれ?』


 彼女が開けた扉の中には誰もいなかった。部屋を間違えた訳ではない。なぜなら彼はワンルーム暮らしなので玄関を隔てる扉の先の部屋は一つしかないのだ。


「確かに、さっきまで気配を感じていたのだけれど……」


 メリーは人形らしい音を立てながら部屋を物色してみる。捨て置かれたカップラーメンに部屋干しされたカビ臭い服、散らかったゴミ等、典型的な男の一人暮らしの部屋だった。

 そんな中に存在感を感じる人形が一つあった。生きている人間と大差ない見た目という

丁寧なつくり。それでいて等身大の女性人形が寝かされていた。


「はぁ~……。最近多いのよねぇ、ダッチ●イフ。大方新しいの買って、使い潰した旧型を捨てたってところかしら」


 昨今、人形遊びに飽きて捨てる子はほとんどいない。今やフリマアプリやネットオークションといった売買サイトを使用して古い人形は再出品される時代だ。プレミア付きで高額取引されることも多い。だから人形を捨てるような女の子のターゲットはめっきり減ってしまった。代わりに増えたのは成人男性による大人の玩具を捨てるパターンである。


「あーやだやだ。お客さんは女の子が良いのになぁ。でもどうして途中でいなくなったのかしら? わたしが人間を見失うなんて初めてだわ」


 メリーは目の前で起こったことに小首を傾げる。いきなり人間が失踪するという前代未聞の経験であるが故にどうすればいいのか分からなかった。

悩んだ彼女は怪異友達に電話をかけることにした。


「もしもし、アンサー? 今暇?」


『暇ではあるが、電話を使う怪異が電話の怪異に電話をかけるとは如何なものか』


 電話相手の男性は説教じみたことを言い始めたが、聞いてやるつもりなど毛頭なかった。


「細かいことはいいの。ちょっと相談したいことがあるの。今から向かうわ」


「構わんが、一々現在地を実況するなよ。怪異相手にまで怪談をなぞらなくてもいいんだ」


 男はぶっきらぼうにそう告げて通話を切った。




メリーさんの電話相手が男性怪異の主人公です。

メリーさんが襲おうとした人間が忽然と姿を消したことが物語の幕開けになります。

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