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月華麗君とりかへばや物語~偽りの宦官が記す後宮事件帳~  作者: 葵一樹
妃嬪の徴証

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証しの宝玉①

「で、その女官が持っていた証をお前が盗ってしまっていたということか」


 呆れ返った様子の銀月を前に、白狼は背を丸めて小さくなった。まったくおまえというやつは、とぶつぶつ言われても返す言葉もない。

 帝都の後宮に連れてこられたばかりで右も左も良く分からない中、仕事の最中のわずかな(?)息抜きが今になってこんな問題になろうとは思ってもみなかった。

 黒花や小葉にも冷たい視線を浴びせられ、白狼はますます小さくなる。

 しかし、以前に指摘されたときに埋めたり焼却炉に放り込まなくてよかったとも言える。いや、やっぱりむしろ証拠隠滅したほうが小難しい自体にならなくてよかったか。


「その問題の玉とは」

「……多分、これだと思う……」


 いつになく厳しい声の銀月を見れば、その目は鋭く自分を見つめている。もう逃げ隠れすることもできずおずおずと卓上に紐帯を出すと、銀月はそれを手に取りめつすがめつして観察し始めた。そして光にかざし中の彫刻を見ると、ふうっと細く息を吐く。


「翠明」

「はい」

「確かにこれは父上が配る玉か?」

「実物を拝見したのは随分と前のことになりますが、それほどまでに見事な細工物であれば陛下のものと考えて差し支えないと……」

「そうか……」


 銀月はそういうと、玉を卓に戻した。

 翠明によれば皇帝が後宮の誰それの宮に泊まった際は、専門の役人が日時を記録するのだという。某月某日、(慈寧宮)皇后誰某氏、というように。

 その記録と、皇帝が配る証をもって懐妊した子が皇帝の御子であると確認をするらしい。

 女と寝た日を逐一記録されるなんて、皇帝とは因果な商売だなと白狼は思う。ただしあの皇帝のことだから、記録に残っていない相手も多いのだろう。まあそのための「証」だということだ。


「こういうものがあるとは聞いたことがあったが、まさか本当に配っているとは……。母上はお持ちでなかったように思うが?」

「お母上の時は、もう皇帝陛下が片時もお放しにならないほどご寵愛が深く証は不要といっておいででしたので、わたくしもすっかり忘れておりました」

「なるほど。父上がこういったものを配ることを知っているのは誰がいる?」

「お手が付いた妃嬪の他は、李尚宮、古参の女官などでしょうか」

「もちろん、皇后や貴妃も持っている、と?」

「御意」


 なるほど、と銀月が頷いた。白い指が形の良い唇に当てられる。


「つまり、皇后や貴妃たちはこれを目印にして女を排除していたという可能性があるな」

「どういうことだよ」


 意図するところがわからず白狼が尋ねると、銀月はこっそりと翠明の方をうかがうように見上げた。翠明はといえば大きくため息を吐きたげな、しかしそれを我慢している様子で目を閉じる。

 おそらく不敬ととられかねないので、明言を避けたのだろう。

 説明をしてもらえないことを察した銀月は仕方ないといった風に自ら口を開く。


「お前も知っての通り、父上は女好きだ」

「知ってる」

「妃嬪以外にも方々で手を出してはずだ。」

「……だろうな」

「その割に御子ができる女が少ない。それはつまり手を付けられた女がことごとく消されているからということではないだろうか」

「……あ」


 銀月の言わんとしている所に気が付いた白狼は息を飲んだ。小葉たちも同様だろう。皆の視線が一斉に卓上に置かれた玉に注がれた。

 この玉は「皇帝の御手付き」の証拠である。ということは、持っている女は皇帝の種を宿していると言って良い。逆に考えればこれを持っている女を探して消せば、皇帝の子は産まれないということだ。


「しばらく前に、女官が行方不明になる事件が続いていたな。今でもあるか?」

「中秋節の前後を境に、聞きませんね」

「あのあたりは父上がとみに忙しく、ほぼ乾清宮から出られなかったのではなかったか」


 そうだな、と銀月は白狼に尋ねる。中秋節前にあちらで仕事についていた白狼は記憶を辿ったが、そういわれてみれば確かにあの時は皇帝も宦官もくそ忙しく宮にずっと籠っていたはずだ。


「皇后も貴妃も父上が後宮に訪れる日を把握できるような目を飼っているはずだ。以前、こちらにお越しになった際、表で貴妃が待ち構えていたそうだがそれも父上の動向を報告したものが居るのだろう」

「確かに……」

「おそらく公式なご訪問以外の訪問についても漏れている」


 そう言った銀月は白狼に目配せした。確かにあの逢瀬を目撃してすぐに女官が一人池に浮いた。素早すぎる処理である。

 皇帝の動向と、玉を持つ女の情報。それらの情報をすり合わせて皇后や貴妃は女を始末していたのか。


「てことは、紅花さんは……俺が玉を盗ったから、生きてる……?」

「そういうことだろう。全く、厄介なことに……」


 銀月は珍しく眉間に親指を当てて天井を仰ぎ、両眼を閉じた。



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