今更のアプローチ
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私の書く現代モノは、なんとなく、恋愛感情に鈍感な攻めが、自分の気持ちに気付いて頑張って振り向いてもらおうと奮闘する系が多いのですが、フッと、思ったのです。
「こんだけ色々やらかした攻めを、愛想尽かしかけた受けが、全部受け入れるもんだろーか……?」と。
そして、今回のお話になりました。
お気に召して頂ければ嬉しいです♪
1、意味不明のティータイム
生徒会解散の引き継ぎ行事を終え、俺、九条悠真は、最終確認のため生徒会室を訪れていた…………のだが…………。
俺は、目の前に出された紅茶を凝視する。
(これは、何の真似だ…………?)
手ずからに紅茶を注ぎ、俺の前に運んで来たのは、ずっと俺を毛嫌いしていた現生徒会長、九竜 翔吾。しかも、盆を持ったまま、ずっとその場に立っている。
その様子を見上げながら、俺はとりあえず言ってみた。
「…………どうも………?」
一応、礼を述べると、会長は、ギュッと盆を握りしめブルブルと震え始めた。真っ赤である。
(…………何だ…………?屈辱に震えてるとか……?なら、やらなきゃいいのに……。)
強引かつ性急なこの男からの世代交代の要請に、もう好きにすればいいと、了承したのは、先日の放課後の事だった。
大方、可愛いハルくんに叱られたか、泣かれでもしたのだろう。何とか補佐という形で前役員を引き留めろ……と言うところか。
(強引な世代交代で割りを食ったのは、ハルくんをはじめとする現生徒会役員だからな……。自分が何でもできるからって、皆がそうだと思うから、こうなるんだよ……。)
俺は、ため息を噛み殺し、言った。
「……会長も、席に着かれては?」
ハッ!としたように俺を見ると、くしゃりとお綺麗な顔を歪めて、視線をさ迷わせる。
やがて、肩を落として、会長用の執務机の椅子に腰を下ろした。
チラ…………チラ…………
こちらを伺うような視線を感じる。
チラ……チラ……チラ……チラ………………ジィイィィ…………
(え?!凝視?!……マジかよ……いや、気のせいだ。)
これに反応したら、また今までのように冷たい視線と言葉が来るのだろう。
(心頭滅却。心頭滅却。……よし!さっさと用事済ませて帰るぞ。)
俺は、深呼吸して、心のなかで、呪文のように繰り返す。
思い出せ。今までのあの男の手酷い態度を。友人や後輩、先生方と話していただけで、媚びてるだの、色目を使うな、気持ち悪い、お前はあいつに相応しくないと、散々罵られて来たのである。
――――スン。
よし、落ち着いた。うん、さすがにコレは、ない。
例え相手がキラキライケメン王子だろうが、初対面で話してその笑顔に一目惚れした相手だろうが、である。
さすがに、この言動はあり得ない。
俺は、タチの悪い笑顔商法に引っ掛かってしまったのだ。わかったからには、もう引っ掛かる事はない。俺は学習する男なのである。
(なぜ、あの刺々しい言葉や視線を、好意からの嫉妬などと思ってしまったのか…………。)
俺は、心の底からため息をついた。
我ながら、人生初の一目惚れに、どんだけ脳ミソピンクだったんだろうかと、呆れる。人の心の機微には敏感な方だと自負していたんだがな……。まあ、これも経験だ。と、思うことにした。でないとやってられない。
「―――――以上です。引き継ぎ準備は万端と、そちらの現生徒会長殿も仰っていましたから、大丈夫ですね?」
鬱々とした感情を隠し、一通りの説明を終えた俺は、にっこりと目の前の後輩達を見渡した。
「……はい。あの、ゆーま先輩、また来て下さいますよね?僕、不安で……。」
と、会計の、東堂陽真……ハルくんが、潤んだ瞳で問いかける。
現会長の視線が険しくなったが、捨て置こう。
俺は、思わず苦笑した。そして、ハルくんの柔らかな茶色いネコ毛を撫でる。うん。やっぱり、うちの茶々に似てる……茶々とは、二年前に亡くなった、栗毛のうちの愛猫である。
「大丈夫だよ、ハル。わからない事があったら、私か、他の誰にでも連絡すればいい。」
俺は、更に険しさを増す会長の視線を無視して、微笑んだ。
――――ナデナデ。
柔らかなネコっ毛を撫でていると、その手をスルッととられる。
「私もです!!お願いします!我が生徒会には、会長のお力が必要なんです!!」
書記の東堂瑠樹……ルキくんは、俺の手を両手でガシッと掴み、すがるような目を向けた。彼は、ハルの双子の弟である。二卵性だそうで、こちらは黒髪長身の美形。しかし、柔らかな笑顔は、どこか似ている。……いまは、必死の形相だが。
「引き継ぎも終えたし、もう私は会長ではないよ。」
「そんなっ!ほらっ、ゆーま先輩!お茶でも飲んで!最近、翔吾がお茶にハマっててさ!"愛する人に飲んで頂くんだ"って、必死で練習してたんだぜ?!」
副会長の東幸寿……ゆきが、必死にとりなそうとする為、とりあえず置かれた紅茶に口をつけた。
……ふむ。偶然だろうが、好みの味ではある。少し気を良くした俺は、微笑んで、今日ここに来た用件を伝える。
「大丈夫だよ。一応、こちらに、生徒会の引き継ぎ資料も用意してるから、わからない事があった時は、こちらを見るといい。」
その流れで、俺は、用意してあった資料を、ルキくんに手渡そうとした…………のだが。
「そんなもの、必要ない…………!!」
現生徒会長の九竜が、ガタン!!と席を立ち、ツカツカとこちらに歩み寄る。怒りと焦燥に満ちた低い恫喝に、忙しい合間を縫って作成した引き継ぎ資料を破られる懸念すらでてきた。俺は今度こそため息をついた。
「……ハァ……。九竜会長。こちらは、貴方にお渡しするわけではありません。貴方の優秀さも、我々の手助けや助言が必要無きことも、存じ上げておりますよ。私はただ、通常よりも二月以上早い世代交代に不安を感じているであろう可愛い後輩達への、我々前生徒会からのささやかなエールを届けに来たに過ぎません。」
「……ちがっ……!!」
九竜会長の整った顔が歪むが、これ以上こいつの持論を展開させる気はない。俺は、構わずに言葉を続けた。
「優秀な貴方には必要なくとも、私の可愛い後輩である彼らには必要。そう判断したまでの事。貴方にどうこう言うつもりも、二度とこちらに来るつもりもありませんよ。……そういう訳だから、じゃあね、皆。」
さっさと立ち上がり、踵を返す。
「そうじゃない!!待って、待って下さ…………!!」
慌てて走り寄ろうとした男に、俺は、渾身の皮肉を込めて、極上の笑みを浮かべて見せた。
「あぁ、お茶は美味しかったですよ。ご馳走さまでした。」
(お前のいる所になど、どんなに茶が美味しくとも、二度と来るか!)
と、言外に含めて。
「え?!あ、そ、そそそんな!!いいいいつでも!!」
珍しく動揺した九竜がどもる。真っ赤になって視線を泳がせ、ワタワタし始めた。
俺は、その隙に、持参した資料をルキくんに託すと、
「では、失礼。」
と、今度こそ生徒会室を後にしたのである。
振り返ることのなかった俺は、気付かなかった。
生徒会長が頬を染めて小さく手を振っている事も、
その後、ポワ〜っと夢想世界に旅立った九竜会長を、残りの生徒会メンバーが、残念な子をみるような目で見ていることにも。
まぁ、仮に気付いたところで、今更だけどね。
2、大事にしたい人
「渡せたか?」
放課後の教室に帰ると、前副会長、佐桐総司が、話しかけてくる。
「あぁ。ルキくんに託してきた。優秀なコ達だ。後は、たまに様子をみていれは、何とかなるだろう。」
「そうか。………帰ろうか、悠真。」
総司がおれの肩を抱き寄せた。
「あぁ。待たせてすまない。ありがとう、総司。」
俺は、自分の肩に置かれた手に、そっと手を重ねる。
「ん?お前と帰れるなら、いつまでも待つさ。行こうぜ。」
大事な幼馴染だった男が、ふわりと笑う。俺の不安も、罪悪感も、全て包み込むように。
そう、俺は守られていた。
生まれた時から側に居る幼馴染。
気付いたのは、本当に最近だ。
当たり前過ぎて気付かない程に、自然に俺に手を差し伸べてくれていたんだ………今は恋人になった、この男は。
「………ほんとに、ありがとう、総司。俺を、待っていてくれて。」
そして、これだけは、伝えねばならない。
初めての一目惚れに、頭がピンクになってた俺は、やらかしてしまった。……ずっと支え、寄り添い、思い続けてくれたこの男に、よりによって、恋愛相談なんぞかましてしまったのだ。
しかも、うたた寝で泣きながらうなされるこいつの寝言を聞くまで、こいつの気持ちに気付けなかった。
その時を思い出し俺は思わず項垂れる。
「………ずっと気付けなくて……傷つけて、ごめん……。」
「ん?構わねぇよ。お前は俺の気持ちに気付いて……俺を、受け入れてくれた。それが全てだ。俺の想いを知ったお前が、それでも側に居てくれる。俺の気持ちを受け入れて、微笑んでくれる。それこそが、俺にとっては何よりも凄い奇跡だ。……愛してるよ、悠真。」
肩に回された手が、更に俺を引き寄せる。反対の手が、俺の腰を抱いた。そうして俺は、総司の腕の中に、スッポリと収まった。
昔から、ここが一番心地良い。何とも言えぬ安心感に、今では、ドキドキが加わっている。
「うん、俺も……。ずっと側に居るのは、お前がいい。愛してる。気づけて良かった……。俺は、幸せ者だな。」
俺は、自分を抱き込む愛しい男の肩口に、額を擦り寄せた。
そして、気付いた。自分の気持ちと、自分の失態に。
(な、なんだコレ……!)
擦り寄せた総司の肩口、浮いた骨にぎょっとした。
かけがえの無い人は、ずっと側に居てくれた。なのに俺は、こいつがこんなになるまで気付けなかったのか?!
(おれは、何やってたんだ!!)
泣きそうになった。こんなに痩せるまで気付けなかった自分の不甲斐なさに。そして、こんなに痩せても、ずっと思ってくれてたコイツの気持ちに。
「総司。俺は、おまえが好きだ。今までの分も、ずっと大事にする!幸せにするからっ!……もう、一人で泣いたりさせないから。」
俺は、総司の背中に手を回し、ぎゅうっと抱きしめた。そして、伸び上がって、頬に唇を寄せた。
チュッ、と、軽いリップ音が、やけに大きく聞こえる。うう……顔が、熱い………!いや、恥ずかしがってる場合じゃないんだ。
総司は、この数ヶ月で、かなり痩せてた。
「だから、ちゃんと食って、体重戻すぞ!旨いもんイッパイ作ってやるから、イッパイ食え!!」
(……絶対、もとの身体に戻してやるからな……!!)
拳を握る俺に、総司が笑う。
「……ははっ……俺は、いつもお前に救われてばかりだよ、悠真。でも今は………」
総司が、耳元で囁いた。
「一番に、お前が食べたい。」
「バッ……ばかっ!こんなとこで……!」
咄嗟に耳を塞いで仰け反った。が、泣きそうな総司の表情に、グッとなって、俺は、結局、
「か、帰ったら、食べていい……お前の部屋で……」
総司の肩口に顔を寄せて、ぽそりと、返す。
その瞬間、総司は真っ赤になって。その後、花が咲くように、幸せそうに笑った。
うん、やっぱり俺は、総司の腕の中で、ずっとこんな風に笑う総司を、見ていたいと思う。
その事に気づけたのは、今回のバタバタがきっかけだ。
そういう意味では、感謝できなくもない。故に、他の旧生徒会メンバー達と共に、今回のサポート体制を敷いたのである。
「じゃあ、早く帰ろう!」
ウキウキと弾んだ声で、総司が催促する。
「そうだな。行こうか。」
俺も微笑んで、歩き出した。
最後迄お読みくださってありがとうございます!
今回は、R15で収まりそう……って言うか、念の為のR15設定です。ほっぺチューと、ハグでドキドキの、可愛い高校生カップルのお話。
お気に召していただけましたでしょうか?
ちなみに、この後、総司と悠真の甘々な現場に遭遇し、九竜会長は、今回のお茶会が手遅れで、ガッツリ失恋した事に気づきます。打ちのめされ、ザマァされちゃう九竜君に、需要はあるかなぁ……?
もしかしたら、この辺も書くかも。なので、一応連載扱いにしておきますね♪
このお話の攻め視点も降ってきたんですが……こっちは、ガッツリR18入るかも……。
いつ書くか不明なので、時々ムーンさんで探してみて下さると、著者が小躍りします♡
お星さまや、イイねやご感想なんか頂けた日には、狂致します♡
大丈夫な方は、そのうち探してみて下さいませ♡