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アガペー

作者: 木村美登里

 おいらはカマキリ。ここんちの花壇の朝顔に住みついてご機嫌に暮らしてるってワケよ。今日もいい天気だあ。お天道様が眩しいぜ。おっとガキが来やがった。君子危うきに近寄らずってな。葉の陰に隠れてやり過ごそう。

「あっ、カマキリさん。 おばあちゃーん、おっきなカマキリさんがいるよー。」

ちっ、見つかっちまった。 くわっ、これでどうだ。

「わっ、立った! かっこいいー。」

お? おう、鎌を振りかざした姿がかっこいいってか? なかなか見る目があるじゃねえか。

「サッちゃん、カマキリさん触っちゃ駄目よ。」

「はーい。 カマキリのキリちゃん、よろしくね。」

へ? キリちゃんって柄じゃねえが、まあよろしくな。


 それからお嬢ちゃんは毎朝おいらに声をかけてくれるようになってよ、そのあとちっちゃな指で朝顔の花をひとつふたつって数えんのさ。それが可愛くってなあ。ガキはみんなおいらを捕まえるか踏み潰すか追っ払うかするもんだと思ってたんだが、ここのお嬢ちゃんは違うのよ。嬉しいねえ。

 

 「キリちゃん、一緒にかき氷食べよう。」

かっ、かき氷ぃ? おいらカマキリだぜ。

「はい、いちご味。おいしいよお。」

はいって言われてもなあ。 ・・・そんなにじっと見つめんなよ。 ・・・どうしても食わなきゃ駄目かい? ・・・うーん、それじゃ食う真似だけな。


 「キリちゃん、おうち作ったよ。お花のシールもいっぱい貼ったの。きれいでしょ。 でね、こうやって置けば雨が降っても濡れないよ。」

・・・そりゃ蓋取って横にすりゃあ雨も防げるだろうけどよ、それ虫かごだろ。 気にかけてくれんのはありがてえけど、おいら虫かごに入るのは気が進まねえなあ。 ・・・だからそんなにじいっと見んなって。 ・・・もう、ちょっと足入れるだけだぜ。



 いかん、猫だ。 こら、朝顔にじゃれつくな! つるが切れるじゃないか! あっちへ行け! 花を落とすんじゃねえ! くそっ、これでも食らえ!

 猫の鼻を思いっきり引っ掻いたおいらは強烈な猫パンチを食らってレンガに嫌というほど叩きつけられちまった。畜生、動けねえ。こんなとこでくたばったらお嬢ちゃんに見つかって心配かけちまう。遠くへ、できるだけ遠くへ行かねえと・・・

 ああ、お隣りのドクダミさんか。すまねえがおまえさんたち、おいらの上におっかぶさってどっからも見えねえようにしてくんねえか。 そうそう、ありがとよ。 これでお嬢ちゃんにも見つかるめえ。猫はあんだけ痛い思いをしたからよ、もう朝顔に近づくことはねえだろう。 お嬢ちゃんが数えんの楽しみにしてる朝顔、おいら守ったぜ。 ふう、目の前がだんだん暗くなってきやがった。

「キリちゃーん、どこ? キリちゃーん。 おばあちゃーん、キリちゃんいないよー。」

「よく捜してごらん。きっとどこかにいるわよ。」

「うん。 キリちゃーん、キリちゃーん。」

お嬢ちゃん、おいらがいなくなったくらいで泣きべそかいちゃおかしいぜ。 ・・・神様でも仏様でも何様でもいいから、お嬢ちゃんと婆さんの頭ん中からおいらを全部消しちまってくんな。頼む!



 「あれ、なんであたし泣いてんのかなあ。 ・・・この虫かご、ここに置いたっけ? なんか変な感じ・・・」

そう、それでいい。 ・・・お嬢ちゃん、元気でな。 今日もいい天気だあ。セミがあんなに賑やかに鳴い・・・

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