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第7話 内乱 その3

 リザは腕を組んだ。


「懸念すべきはもう一点。現在使われている坑道はゴードリッジ公爵軍が駐屯しているから、通るのはまず無理。だから、廃坑になった場所から行こうと思うんだけど、おそらく、人の手が入っていない坑道には多くの魔物が棲みついていると思うわ」

 

 

 魔物、アニメや漫画でしか見たことがない。実物を見ることなんて、人生で絶対にないと思っていたが、まさか、こんなところでお目にかかれるかもしれないとは思わなかったな。なら、まず知っておかないといけないのは、魔物の強さだ。


「魔物って強いのか? 正直、俺はまだ戦ったことがないんだが」


 俺は率直に質問してみた。


「個体にもよるわね。ゴブリンやオークは比較的に弱いけど、トロールのような大型の魔物になると話は変わってくるわ」


 トロールもいるのかよ。ゲームとかでいきなり、会心の一撃とか食らわせてきて、ゲームの主人公を瞬殺する絶望な代名詞みたいな奴だよな。そんな化け物相手に戦えるのか……。てか、一体だけならいいのに5体同時に出てきたときは思わず、コントローラーを投げた記憶がある。


「でも安心して、こう見えても私、強いから」


 自信ありげにそういう。冗談ではなさそうだ。壁に飾られている鎧もかなり立派なものだし、リザの言葉を信じよう。


「わかった。それでいこう」


 視線を山田に送ると山田も首肯した。


「それじゃあ、行く先は決まったことだし」


 俺はあくびを噛み殺し、涙をぬぐった。


 リザは俺たちのために自分のベッドを提供してくれたが一人用のベッドが一つ。


 小柄な人間なら二人で寝転んでも十分余裕があるサイズだった。


 俺はリザと山田を交互に視線を送る。


 まぁ、仕方がない。ここはレディーのためだ。俺が床で寝るしかあるまい。


「二人はベッドで寝ていいよ」


 気を遣って、言ったつもりなのに山田は真顔で答えてきた。


「当たり前だ。男は床で寝ろ」


 ……おい、どこかで聞いたことがあるセリフだぞ。


「ごめんなさい。ベッドが一つしかなくて」

「いいさ。俺は残業とかでよく、会社の床で寝てたりするから」


 会社の応接室のソファーで横になって一夜を過ごしたことがあったしな。うんうん、俺、偉い。


 なぜか、わからないが、とても悲しくなった俺は部屋の隅っこに丸まって眠ることにした。


 リザが気を遣ってくれたんか、毛布を一枚、渡してきてくれた。


「底冷えしますから、どうぞ使ってください」

 

 微笑みながら見下ろしてくるリザが輝いて見えた。

 

「かみしゃま……」


 思わず言ってしまった言葉は幸いにも聞こえなかったようだ。


「え? なんです?」

「あ、いや、えっと、ありがとう」


 礼を言うと毛布を受け取った。


 山田の方はというとベッドに横になり、ずっと履いていたヒールを脱ぎ、靴下を脱いだ。


 山田の素足を俺は初めて見た。きれいでスラっとしている。足の裏にはマメの跡などは一切なく、健康的な肌をしていた。足の指は長く、爪の形もいい。まるで芸術品のように美しいと思った。つい見惚れてしまった。


 しばらく、観察していたら、何をするのかと思いきや、自分の脱いだ靴下が気になったのか、おもむろに嗅ぎ始めた。


「くさっ」

「何やってんの?」

「え? これ、習慣なんだ。あたし、匂いフェチだから」

「やめろよ。幻滅する」


 行動がおじさんすぎるだろ。中身、実はおじさんなんじゃないか。


「先輩は潔癖症? てか、女に興味ないの?」

「興味はあるけど、変態行為は嫌だ」

「あっそ。変なのー」


 どっちが変なんだよ、と心の中で、ツッコミを入れる。


 山田は両手を上にあげて、背伸びし両足を伸ばす。それからすぐにスヤスヤと寝息を立て始めた。


 リザが山田の顔を覗き込む。


「もう、寝てますね」

「寝るの早いな……」


 そりゃそうか。山田と俺は一日中働き、残業までして、挙句の果てには異世界に飛ばされたのだから、肉体的にも精神的にも疲労しているはずだ。そっとしておいておこう。







 ―――翌朝。


「…………ん?」


 何か温かいものが身体に触れている感触があり、目が覚めた。ぼーっとしながら目を開けると柔らかい何かが目の前にあった。


 寝ぼけながらも手で確かめる。ムニッと柔らかい感触。そして温かさがあった。これは……。


「……んふぅ、くすぐったいです……」


 リザが自分に覆いかぶさるようにして寝ていたのである。その豊満な胸が俺の顔に押し付けられている。なんとも言えない至福の感覚が全身を襲う。


「俺、もう死んでもいいわ」


 それよりもまず、俺がすべきことは……


 上に乗っているリザを起こさなようにゆっくりと押しのけて、起き上がる。


 リザはまだ寝息を立てているので、一安心。胸を揉んだだなんて言ったら山田に殺されそう。


 それから山田の方を向いた。


「うおぉおお! こいつ、なんて格好してやがんだ!」


 ワイシャツがめくれ上がり、お腹が見えていた。ボタンも外れていて、黒のブラジャーが見えている。腰にはちゃんとくびれはある。


 うん、合格。なんつって。

 

 山田は毛布を蹴り飛ばし、ベッドの上で大の字になっている。


 なるほど。リザはこいつに追いやられて、俺のところに来たんだな。


 それにしても……


 俺は視線をリザの胸と山田の胸を見比べた。山田の胸はリザに比べると明らかに小さい。いや、小さすぎる。俺の方があるんじゃないか説。山田が寝返りを打ち、こちらを向いてきた。俺は慌てて、山田に毛布をかけてやる。


「山田、風邪引くぞ」

「……」

「山田」

「……ううん」


 返事をしたが目を開けない。仕方ないので、俺はリザの方を起こすことにした。


「おい、リザ、朝だぞ」


 肩を揺すってみる。反応なし。俺は、もう一度、今度は少し強めに揺らした。


 すると、ようやく、薄らと瞼が開き、焦点が合っていない瞳が俺を捉えてきた。


「あ、おはようございます」

「おう、おはよ」

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