第6話 内乱 その2
「貴方たち、とんでもないときに来たみたいね……」
「どういうことですか?」
「アルティミアは今、物騒なことになっている」
物騒なこととは何のことか分からなかった。とりあえず、思いついたことを言ってみる。
「魔物が暴れ回っているとか?」
「いいえ、違うわ。アルティミアは今、内乱状態なの」
「「内乱!?」」
思わず大声で叫んでしまった。俺たちが生きている世界では紛争やら内戦をしている国はいくらでもあるが、日本はいつも対岸の火事のようなもので、危機感はなかったが、今いる自分たちの国が内乱と聞いて、驚いてしまった。山田も同じような反応を見せた。
「しっ! 静かに!」
「す、すみません」
女性は人差し指を立てて口元に当てる。
「ここは森の奥深くだけど、近くに反乱を起こした兵士たちがいるの。見つかったら面倒なことになるわ」
それで、集落なのに人の気配がしなかったのか、と理解した。ここに住む人々はおそらく、息を潜めて家の中に隠れているのだろう。
「でも、どうしてそんなことに? 何かあったんですか?」
「貴方たち、ネコ将軍って知ってる?」
「ん? どこかで聞いたことがあるような気がするが……」
それに俺はネコ将軍を知っているような気がした。しかし、思い出せなかった。
「そのネコ将軍ってやつは、あなた達と同じ、異世界からやって来たの」
「なるほど……だからそんな名前なのか……」
合点がいく。
「それで、そのネコ将軍と内乱と何か関係があるのか?」
「ネコ将軍はアルティミアの大貴族の一人、ゴードリッジ公爵と手を組んで、王国に反乱を起こしたの」
ネコ将軍という謎の人物はアルティミアでとんでもないことをしてくれているようだ。反乱なんて起こして、この国を取るつもりなのか。
「悪いことは言わないわ。ここから早く逃げた方がいい」
「どうしてだ?」
「貴方たちがいるこの場所は反乱を起こしているゴードリッジ公爵の領内なのよ」
この国が内乱状態なのはわかったが、だからといって、自分の身に危険が及ぶようなことはない気がした。敵対する勢力に所属してるわけではないからだ。片っ端から民を殺しまくっているのなら話は別だが。
「だからって、逃げる必要はないとは思うが?」
「いいえ。そういうわけにはいかないわ。カイネ大佐っていう異世界の男の子がアルティミアにやってきたんだけど、すぐにネコ将軍に捕まって……」
視線を落とした。小さく答える。
「……殺されたわ」
「殺された?」
自分の耳を疑った。俺は続けて話す。
「なんで? 同じ異世界人なのに?」
同じ異世界からやって来たのなら、うれしすぎて、互いに抱き絞め合って、話が弾んだりして、お互いに助け合って生きていくのが普通だろ。なんで、殺す必要があるんだ。
どうして、殺したのか、金色の長髪の女性も理解できないというような顔をした。
「理由はわからないわ。でも、槍で串刺しにして、さらには火炙りの刑まで……」
ゾッとする話だ。つまり、俺たちもカイネ大佐のようにむごたらしく殺されるかもしれない。そう思うだけで体が震えた。
「あの子はまだ子供だった。きっと、怖かったと思う……」
「まるで、近くで見ていたかのような話しぶりだな」
「それはそうよ。なぜなら私はゴードリッジ公爵の護衛騎士―――」
その言葉に俺と山田は思わず、立ち上がってしまった。
「護衛騎士!?」
「じゃあ、あんた、ネコ将軍側の人間ってことか?!」
「しーっ! 声が大きい!」
慌てて俺の口を塞いできた。
「話を最後まで聞きなさい」
「ふひません」
「私はもうゴードリッジには仕えていないわよ」
塞いできた手をのけて尋ねる。
「仕えていない?」
「そう。もう仕えていないわ」
「どうして?」
「私はあんな残虐非道な行いを平然を行うような男の下には仕えたくないわ」
怒りと悲しみが混ざった表情で拳を強く握った。
「だから、私は今はこうして隠れながら生活をしているってわけ」
「それ、逃亡者じゃねーか」
「うっ……。まぁ、そうなるわよね……」
目をそらした。図星らしい。だからこんな場所に隠れるように住んでいたのか。
金髪の長髪の女性が手を差し出してきた。
「私の名前はリザ・フォンレスト。リザって呼んで」
「俺は早島誠、んでこいつが山田有利」
「名前からして、異世界人ね」
「それはどうも」
握手を交わす。すると、山田が尋ねてきた。
「それで、これからどうする?」
「さっき言った通り、ゴードリッジ公爵領から逃げましょう。お尋ね者が三人、ここに大集合していることだし、見つかるのは時間の問題だと思うわ」
「逃げるってどこに? 当てはあるのか?」
「えっと……ちょっと待ってて」
そういうとリザは立ち上がり、壁にかけてある鞄の中から何か四つ折りになっている紙を取り出し、机の上に広げて見せた。
「これを見て」
そこには地図が描かれていた。
「これは?」
「アルティミアの周辺地域が描かれているもの」
アルティミアがどれだけ大きな国なのか俺は知らなかったが、アメリカ大陸ほどの広さがあるように思えた。
「ここが現在地で、こっちにある森を抜けた先にアルティミア王国の支配地域がある」
「支配地域?」
「そう。さっきも言ったと思うけど、アルティミア王国は今、王国支配地域とゴードリッジ公爵の支配地域の二つに分かれているの。そして、私たちがいるここはゴードリッジの支配地域の端っこに位置している」
今いる森はかなり広範囲に広がっているようで、とてもじゃないが、越えられなさそうだ。
「じゃあ、森を抜けて、王国領へ?」
「それは無理ね。ここら森の一帯はゴードリッジ公爵軍が巡回している」
「なら、通れないってことか?」
「そういうこと。仮に通れたとしても、野に屍が3つ転がるだけだわ」
つまり、捕捉されて殺される、っていうことか。
「じゃあ、どうするの?」
山田の問いにリザはしばらく考えてから答えた。
「一つ、方法がある。あまり、オススメはできないけど」
そういうとリザは人差し指をある場所に指差した。そこには森の近くにある大きな山脈だった。
「この山脈には鉱山が多くあるの。だからあちらこちらに坑道がはりめぐらされていて、そのどれかには反対側にいけるみたいなの」