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第12話 エルドランの街

 辺りを見渡すと夜遅くに街に訪れたのにも関わらず、街の中は人通りが多く、街の酒場では盛大な酒盛りが始まっていた。賑やかな街だな、そう思った。


 俺は夜の店に行ったことがない。繁華街にもあまり興味がなかったし、そもそも仕事で疲れ果てた俺は夜中に出歩くことはなく、一直線に家に帰っていた。だから、すべてが初めて見る光景だった。


 街角の店にはあからさまに露出度の高い服を着た女性たちが立っていて、道行く男を誘惑している。


「うわぁ……」


 初めて見る夜の世界に圧倒されながら、誘惑している美女たちを俺は遠くから凝視していた。


……いつかはあんな感じの女性を相手にする日が来るんだろうか? いやいや、想像できないぞ。


 見入っていた俺の脇腹を山田が小突いてきた。


「先輩、さっきから何を見ているですか? 軽蔑しますよ」


 何を見ていたのか、バレていた。慌てて言い訳した。


「いや、別に見てないって。それにしても賑やかな街だなと思って見ていただけだ」


 山田はジト目で俺を見た後、ため息をつく。


「まったく……この世界に来てまで先輩は先輩のままですね」

「どういう意味だよ?」

「そのままの意味です。童貞丸出しですよ」

「うるせぇ! お前だってそうだろ!」

「あたしは違いますけどね」


 どや顔でそういった。おのれ、呪ってやる。そう思った。


 先頭を歩いていたリザが振り返る。


「早島殿、あまり、目立たない方がいいですよ。余計なトラブルに巻き込まれますので」

「あ、ごめん、気を付ける」


 俺は素直に謝った。確かにここは異世界なんだ。日本とは違うんだ。郷に入っては郷に従えという言葉もある。俺がいた安全な日本の街じゃない。何が起きるのか、予想もつかない異世界の街。俺は気持ちを引き締めて歩き始めた。


 ルルとリザは仲良さそうに二人並んで、歩いているのを俺と山田が後ろからついて行くという構図になっていた。


「それで、どこに行くんだー?」


 前を歩く二人に声をかけた。二人は振り向いて答える。


「まずはルル殿の家に行きましよう。それから今後どうするかの方針を話し合いましょうか」

「おーけー、じゃあ、案内よろしく頼むぜ」


 俺はリザの言葉に従ってついていくことにした。山田も黙って従っているようだ。


 街の中をしばらく進むと、すれ違った緑色の長髪の女性に視線が行き、思わず立ち止まってしまった。その女性は、まるでアニメから抜け出してきたかのような美しい女性だったのだ。山田も同じようにその女性に視線を送って感想を述べた。


「綺麗な人ですね」


 スラっとした長い足、くびれのある腰回り、大きな胸元、そして整った顔つき、全てが完璧なように思える。だが、どこかおかしい気がする。


 そんなことを考えているうちに、緑の髪を揺らして彼女は俺たちの横を通り過ぎていった。反対側からも赤い髪色の女性が歩いてくるのが見える。こちらはスタイルが良く、モデルのような体形をしていた。横切っていく彼女の耳に目を向けると先っぽが尖がっていた。あれはエルフ族の特徴だ。アニメや漫画で見たことがあるエルフだ。


「うぉおおおおお????!! すげぇえええええ!!!!」


 俺は興奮してしまった。全身に鳥肌が立つ。こんなこと夢にも思っていなかったからだ。


「ど、どうかしましたか? 先輩」


 山田は突然叫んだ俺を見て驚いている。


「いや、なんでもない。ち、ちょっと驚いただけだ」


 俺の叫び声に周りにいた街の人がこちらを見る。俺は誤魔化すために咳払いをして、その場を逃げるように足早に歩き出す。


「いやぁ、まさかこんなところで本当に会えるとは思ってなかったなぁ……」

「先輩、さっきの二人、誰なのか知っているんですか?」


 山田は不思議そうな表情した。


「お前、エルフとか知らないだろ?」

「知らないですね。なんですかそのエルフって?」


 俺は山田に対して、少しだけ優越感に浸りながら説明を始める。


「いいか、よく聞けよエルフというのはな、ファンタジーRPGに出てくる人型の種族の一つだ。特徴としては長寿で、永遠の命を約束されている。ああ見えても、もしかしたら300歳とかかもな。そして、弓に長けていて、魔法も得意だ。さらに言えば美人が多いのも特徴だな」

「へぇ~。美人ね。確かにさっきの二人は美人でしたね」


 俺の説明を聞いた山田の反応は薄かった。


「お前、もう少し驚くところだろうが! 異世界といえば、エルフだろ?? 夢と希望が一瞬で叶った瞬間なんだぞ?!! もっと熱くなれよ!!」


 俺と山田の温度差は激しかった。どこか、悲しく思ってしまう。


「いやいや、異世界に来て、急にエルフが現れたからといって、それがなんですか? あたしは先輩と違って普通の人間なので、なんにも思いませんけど」

「おい、待て。俺を異常者みたいな言い方するのはやめろ」


 なんで、こいつはすぐに俺を異常者にしたがるんだ。前だって、ありもしない女装癖があるっていってきたし。


 てか、すっかり忘れていたが、俺今、女性ものの服を着ていたんだった。


「実際そうじゃないですか。先輩はあたしからしたら普通じゃありませんよ」

「うるせぇやい!」


 俺は山田と言い合いをしながら、街角を曲がると、一軒の大きな屋敷が見えてきた。その家は豪邸と言ってもいいくらいの大きさで、俺が今まで住んでいたアパートの部屋が10個以上入りそうだ。さすがは立派な豪邸か。門番までいて、リリーの姿を見るとすぐに駆け寄ってきた。


「これはルル様、こんな夜遅くに出かけるとは、執事長がご心配されておりましたよ」

「うぐ。バトラーのやつ、怒ってそうだな……」

「そりゃあ、もうカンカンです。黙って出て行ったのですから当然ですよ」

「それは面倒だな……。わかった。帰ったら謝ることにする」


 ルルは苦笑いしながら答えた。


「とりあえず、さぁ中へ。主様のお戻りである! 門をあけよ」


 門番が後ろへ振り返り、声を上げると、鉄の門がゆっくりと開いた。開ききったことろで、ルルは豪邸に向かって歩き始めた。


「え? ちょ、ルルってもしかして、金持ち?」


 予想外の問いに面白かったのか、ルルは笑いながら顎でついてこい、と合図をした。


 山田と俺は顔を見合わせ、仕方なく後をついて行くことにした。


 鉄の門をくぐるとそこには、手入れされた庭が広がっていた。芝生が広がり、真ん中には立派な噴水がある。俺たちのお出迎えに燕尾服をきた執事が数人出てきた。メイドもいる。俺はあまりの光景に言葉を失ってしまった。


「おかえりなさいませ、ルル様」

「うむ。ご苦労」


 ルルがそう答えると、執事たちは深々と頭を下げた。


「お荷物をお預かりします」


 メイドの一人が俺の荷物を預かってくれた。といっても腰につけていたポーチくらいだったが。


 丁寧に接してくれたメイドの女の人に俺はお礼を言う。すると笑みを浮かべた。


「可愛い……ん?」

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