第11話 廃坑の中で その4
俺は咄嵯にリザを突き飛ばした。山田も同じように突き飛ばす。そして、そのまま地面に伏せる。頭上に大きな岩が落ちてきた。俺は目を瞑る。だが、岩が砕ける音がした。
驚いたように目を開けると目の前には山田が立っていた。本人も何が起きたのかわからず、驚いているようだ。
「お前、一体、何をやったんだよ?」
山田の足元には粉々になった岩が転がっていて、何かに砕かれたようだった。
「い、いや、わかんないけど、無我夢中になって、拳を振りかぶったら……」
「岩を防いだっていうのか拳で?」
「そうなるね。ほら」
山田は右手を前に出す。その手は真っ赤に染まっている。それだけで済んだことに驚きが隠せないでいた。
「山田殿、痛くはないのですか?」
リザは恐る恐る尋ねる。
「全然、平気。少しジンジンするけど。もう一回試してみようかな」
転がっている大きな岩に向かって、右こぶしを繰り出す。すると現実世界ではありえないほどの力が岩に加わり、粉々に砕け散った。
「まじかよ」
山田の能力はゲームでいうところのパワータイプなのか。
「おい、大丈夫か!!」
俺たちは声がした方へと振り向く。そこには一人の魔法少女のような恰好をした少女が立っていた。少女は俺たちの姿を見ると驚いたような顔をしていた。
「あれ? なんで、リザがここに?」
「あなたは……」
リザはその少女を知っているようで、驚いたような顔をしている。少女はゆっくりとこちらに近づいてきた。そして、俺たちの前に立つ。
「その瞳、その髪色、顔立ち。うーん。日本人ってことろかの?」
「え、そうだけど」
「やっぱり」
そういうとその子は笑みを浮かべる。
「わしはルル・エクスアという。よろしくじゃ」
そう言って手を差し出してきた。俺らは戸惑いながらも握手をする。
「えっと早島です」
「山田です」
「早島に、山田か、よろしくじゃの」
リザは礼儀正しくお辞儀した。それを見た彼女は不思議そうな顔でリザを見つめる。
「リザ、おぬし、なぜまたこんな場所に?」
「それは私のセリフなのですが……」
「むっ! それもそうじゃの」
リザの指摘に納得するように腕を組む。そして、思い出したかのように口を開く。
「まぁ、いいの。それよりも、ここから出る方法を教えてやるわ」
「ほんとか!」
俺は嬉しさのあまり飛び跳ねた。
「ああ、本当じゃ」
「よかった。こんなジメジメした場所、早くでよ」
山田も喜んだ。俺も安心して胸を撫で下ろす。これで、ようやく外に出られる。
ルルという魔女の格好をした少女に導かれながら俺たちは何とかして、坑道を出ることができた。外はもう夜になっていた。
「ふぅ……やっと出れたぜ」
月明かりの下、俺は大きく伸びをして深呼吸する。本当に久しぶりに吸った空気だ。肺いっぱいに入ってくる新鮮な空気がとても心地よい。
「しかし、どこなんだここ?」
辺りを見渡すとそこは森の中だった。
「ここか、ここは……えっと、なんていう名前じゃったかのう」
ルルと名乗った少女は困ったように頭を掻いた。
「あの、ルル殿。ここはエルドランの森ですよ」
「おお、そうじゃった。森の名前など忘れてしまったわい」
「忘れないでくださいよ」
呆れているリザを見て、彼女は苦笑いを浮かべていた。
「あはは、すまんかったの。ここに来るのも久方ぶりだったからの」
「それで、どうしてここに?」
「うん? そりゃ、決まっておろう」
そういうと彼女は俺と山田を交互に見る。
「お主らを探しにきたんじゃよ」
「私たちを?」
「そうじゃ、お告げがあったのじゃ。アルティミアの門を潜りし者を導け、と」
「お告げって……」
「詳しくは歩きながら話してやろう。まずは街に戻らねばならん」
俺たち三人は彼女について行く。森の中を進み続けるとようやく舗装された道に出た。人の手が入っていることだけでも安心できた。魔物にもでくわしていないし、何とかなった。
少し斜面になったところを下っていくと視線の先にポツポツと明かりが見えた。小さいが外周を石壁に囲まれた立派な街がそこにあった。
「あれが、エルドランの街じゃ」
俺は感慨深くその光景を眺める。中世ヨーロッパのような街の形を見て、ようやく、異世界に来たと実感が出てきた。どんな住民がいるのか、ワクワクしながら俺は足を前に出す。
街に入る木製の門には門番が立っていた。かがり火がともされていて、オレンジ色の炎が揺らめいている。
「おい、そっちの奴、止まれ」
俺たちは門の前で止められた。槍を持った男が鋭い目つきで俺たちを睨んでいる。
「はい、なんでしょうか」
「お前たち、何者だ? こんな夜更けに何をしている?」
真夜中に彷徨いているのだ、誰だって警戒するだろう。
槍を構える門番らの前にルルが一歩前に出る。ルルの顔を見た門番らの目が見開く。
「ルル様?!」
「なぜ、こんな時間に外を出歩いているのですか?」
「ちと、散歩をしておってな。そんなときにこの旅人らに出会ったのじゃ」
「なるほど」
門番らは納得したようにうなずく。どうやらルルという名前はここでも通用するらしい。門番が大きな木製の門をノックする。
「いいぞ、あけろ」
すると大きな音を立てて門の扉が開いた。その奥に見えるのは石畳の道、そして、煉瓦造りの建物が並ぶ街並み。街灯も設置されており、明るい雰囲気があった。