第10話 廃坑の中で その3
「ん?」
ギルスは空を見上げる。驚きのあまりに目を見開いた。
そこには巨大な竜がいた。翼を広げれば5メートルはあるだろう。身体は真っ赤な色で、頭には角が生えている。尻尾は長く蛇のようだ。牙は大きく、鋭い。鋭い爪は獲物を引き裂くために備わっているようだった。
竜はギルスをぎょろりと見下ろすと大きな口をあけ、息を吸い込む。その口の中には炎が見える。
「な、なんで、こんなところに炎竜がいるんだよぉおおおお??!!」
ギルスが叫ぶと同時に口から火球が放たれた。それは一直線にギルスに向かっていく。ギルスはよけようとしたが、真っ赤な火球に身体が飲み込まれた。
熱風が俺たちに向かってきた。とても熱い。
ギルスは瞬く間もなく、一瞬にして消し炭になった。悲鳴もあげることもできないほどに一瞬だった。
俺たちはその光景を見て、呆然と立ち尽くしてしまった。
一番に反応したのはリザだった。
「山田殿、我々では炎竜には勝てません!! 急いで坑道へ逃げましょう!」
リザは慌てたように俺を拾い上げて、坑道に向かって、駆ける。山田もそれに続いた。その動きに反応した炎竜は今度は俺らの方へと視線を向けると、咆哮した。
鼓膜が破れるかと思えるほどの大音量だ。俺は耳を抑えた。
リザは振り返ることなく、俺を強く抱えたままとにかく走る。坑道の入り口へと飛び込んだ。
背後から何かが飛んでくる音がした。背後がオレンジの色に光る。熱風が迫っているのがわかった。俺達には当たることはなかったが、坑道の入り口の岩肌に命中し、天井が吹き飛んだ。
岩が崩れ落ち、俺たちは暗闇に包まれる。
無音の中、リザが囁く。
「光よ。我らを照らせ」
すると、あたり一面が明るくなった。まるで蛍のような光がいくつも浮かんでいた。
山田が驚いたような声をもらす。
「CMとかで見たことあるけど、それもしかして、魔法ですか?」
「えぇ。少しだけ使えます。それよりも……」
リザは俺を下ろし、壁に寄り掛からせる。蛍のような光と俺に近づけ、傷口を確かめように服をめくる。
「うぅ……」
俺は痛みで顔をしかめた。リザはすぐに服を元に戻す。
「早島殿、傷は浅そうです。少し、痛むかもしれませんが、我慢してくださいね」
そういうと俺の傷口に手を当てて、呪文を唱える。
「慈愛の神よ。このものの傷を癒したまえ」
淡い緑色の光が傷口を覆う。暖かな感触が広がっていく。そして、数秒後には痛みは引いていた。
「あぁ……ありがとう。助かったよ」
「いえ、お気になさらず」
リザは再び俺を抱え上げようとする。
「いいよ。自分で歩けるから」
山田が心配したような顔で見つめてきた。
「大丈夫だって」
俺はゆっくりと立ち上がる。まだ足取りはふらつくけど、さっきよりマシだ。
……魔法ってすごいな。斬られたところに手で擦ってみた。傷口はしっかりと塞がっている。
が、身体の奥から痛みが残っているようだった。完全に回復する、というわけではないのか、と思った。
少しふらついた。それをみて、山田は俺の手を掴み、肩に手を回させる。小さく小声でつぶやく。
「どんくさいんだから」
「……あ、ありがとう」
イケメンすぎるだろ、お前……と心の中でつぶやく。
リザは視線の先に向かって、手を振ると光の玉が反応し目の前に移動する。
「さぁ、先に進みましょう。何が潜んでいるかわかりません。警戒を」
「OK!」
俺たちは奥へと進んだ。
リザが先頭に立ち、俺らが後に続く形で進んでいた。リザは時折後ろを振り返りながら進んでいる。
どうやら、この道は一本道になっているらしい。分かれ道もなく、ただひたすらまっすぐ伸びている。
しばらく、進むと開けた場所に出た。そこはとても広い空間になっていて、いくつもの木箱が積み上げられていた。採掘を行うためのつるはしも転がっている。
少し、湿気ているような気がした。地面にも水たまりができていて、水がしたたり落ちる音がした。リザの光の玉に反応して、金色の光を放つ岩肌を見て、目を細めた。
「これは……」
リザは不思議そうな表情を浮かべる。
「ここって、採掘場だったんだよな?」
「そうですね」
転がっていた石ころを手に取る。石ころの中に金色に光る物が見えた。
「なんだこれ?」
「それは金鉱石ですよ。かなり純度が高いものですね」
「へー。こんなところに、普通に転がっているんだな」
「そうみたいですね」
リザは興味深げに石を眺めていた。
「ちなみに、これ、どれだけの価値があるんだ?」
「そうですね。大きさにもよると思いますが、約100000Gくらいでしょうか」
「100000G?!」
俺は思わず声を上げてしまった。山田は価値がよくわかっていないようだが、MMORPGをよくやっている俺によってはその価値をよく知っている。ザコモンスターを倒しても1G、少し強めの魔物を倒して、100Gくらいだ。俺の反応を見て、リザはくすりと笑う。
「驚くほどではありませんよ。鉱山で産出される貴金属は需要が高く、高値がつくのです」
「そ、そうなのか……」
俺は改めて石ころを見つめる。
持ち帰りたい。お金はいくらあっても困らないから。
リザと山田は辺りを警戒していた。俺はその隙に石ころを数個、手に取ると、胸ポケットに忍ばせた。
「よし。なぁ、とりあえず、先に進もうぜ。ここにいてもしょうがないし」
「そうですね」
再び歩き始める。
またしばらくして、開けた場所に出た。そこには大きな扉があった。
「開けますよ」
リザは扉に手をかける。その瞬間だった。
「ガァアア!!」
獣のような雄たけびが聞こえた。それと同時に地面が大きく揺れた。
「な、なに?!」
山田が慌てたように叫んだ。
次の瞬間だった。轟音とともに、天井が崩れ落ちた。その瓦礫は俺たちに向かって落ちてくる。
「危ない!!!」