第1話 異世界への道
俺は仕事を終えて、自宅へとまっすぐ帰った。
風呂に入り、ビールを飲んで、いつもの就寝前のネットサーフィンをしていた。
ネット検索するとき、俺は適当に打ち込んで遊ぶのが最近のハマりだった。
適当に「ハーレム」と打てば、ハーレム関連が検索がヒットして、新作のラノベや新しく始まる映画などの情報を得ることができたり、ミネルと打てば、「ミネルヴァ戦記」という小説が出てきたりと。自分では知らない新しい発見がある。
そう思うとネットとは便利なものだ。
今日は適当に「アル」と打ち込んでみた。
すると「アルティミア」という題名のサイトがヒットした。というより、それしかヒットしなかった。
そのサイトの見出しに描かれている内容はあまりにもばかばかしくて、非科学的なことであり、最初は嘘だろうと思っていた。
しかし、あの言葉が気になっていた。
―———選ばれし者よ、描け、転移魔法陣を。そして、門の前で唱えを魔の言葉。アルティミアに来たければ、己の力で、門を開け、勇者となれ。賢者ハドルス
「勇者になれ? 勇者ねぇー」
俺は視線を本棚へと向ける。
そこには「異世界転生~」「異世界転移~」というタイトルのライトノベルがズラリと並んでいた。最近の流行らしく、本屋では店員のイチオシと言って、店の正面に並べられている。
だから、俺もたくさんの作品を手に取っては、読み漁ってきた。
「おじさんが転生して、英雄になって、美人なエルフとか、ハーレムとか、チート能力得て俺、つえぇーとか。あぁ夢があるよなー」
座椅子の背中を預ける。椅子が悲鳴を上げる。
「また少し太ったかも?」
そういって、自分のお腹に手をあてる。脂肪の塊を見て絶望してしまう。
「俺も若かりし頃は女の子にモテたのになー(自称)」
今年で30歳を迎えた俺はいよいよ「おじさん」と言われるようになった。会社でもおじさんと言われ始めていたのが最近のショックな出来事である。
俺はいろんな夢を見てきた。だが、夢は夢に過ぎない。
叶えられる夢もあるのだろうが、この“転生”と“転移”については世界をひっくり返すことができない限りは不可能だ。
ため息を大きく吐く。
「はぁ。明日は6時起きかぁ…。だるいわー」
大きくあくびをしたあと、サイトをおもむろにスクロールした。するとサイトの中に掲示板があった。マウスの右側をクリックして、開いてみた。
そこでは様々なユーザーが盛りを見せていた。まるで、何かのMMORPGのキャラクター名のような名前ばかり。
コメント数はどれも1000数以上。
「こんな、よくわからんサイトでも結構な人がいるんだな」
正直、賢者ハドルスという男か、女かわからないやつが作ったサイトに人が集まることが不思議で仕方がない。
過疎っているのが普通だろと思っていたが意外だった。
時計の針の音が部屋に響く。視線を壁に吊られてる時計へと向けた。
時刻は22:30分。
一度、寝るか寝ないかを考えたあと決める。
「まだ、寝たくないし少し見てみるか」
そう言って、最新の題名の内容を見ていくことにした。
「異世界アルティミアに行けた奴いる?」
―———1 ネコ将軍 2022年05月04日(水)22:30:18.32 ID:neko886
私、まだ行けてないけど、そろそろ行こうかなって思ってる。なんか、注意点とかある?
―———2 カイネ大佐 2022年05月04日(水)22:35:16.40 ID:kaine56
>>>1 僕、なんか知らないけどミスって、海のど真ん中に転移したよ。。。気をつけて。
―———3 グラディエーター 2022年05月04日(水)22:40:10.50:ID:gurade54
>>>2 おつw 唱え方まちがえたんじゃないの?w
―———4 信長 2022年05月04日(水)22:50:10.18ID:nobunaga1
>>>2 あーそれ、転移魔法陣はちゃんとした円じゃないとだめらしいよ? それに一文字でも間違えたら変なことろへ飛ばされるらしい。
―———5 カイネ大佐 2022年5月04日(水)23:10:18.25IDkaine56
>>>4 それ、早く言ってよ!! 餓死するところだった。
―———6 ネコ将軍 2022年05月04日(水)23:30:50.12 ID:neko886
私、不安になってきたので、どなたか転移魔法陣教えてください。
―———7 グラディエーター 2022年05月04日(水)23:50:30.50:ID:gurade54
>>>6 円の中央に☆ 各先端部分にアルティミア語で人、魔物、光、闇、太陽って描く。描く場所はどれでもいいらしい。むしろ、ランダムにした方が、いい場所に行けるかも?――――
そんな、どうでもいいやり取りが続いていた。俺はこの掲示板の流れを見て、MMORPGの話をしているのだろうと思った。
「なんだよ、ゲームの話かよ」
何にも面白くないと思った俺は掲示板を閉じ、そのままPCの電源を落とした。背伸びをしたあとベッドに顔からダイブする。
「あぁ目が疲れたー」
ふんわりした低反発の枕が優しく顔を包み込んでくれる。
「はぁ……。試しに俺、一回、死んでみようかな」
転生などの物語の始まりは何らかの死によって始まる。
殺されるか、不慮の事故によって神様が同情して転生させる、という流れだ。
普通に考えたらそんなバカげたことはあり得ないので、やめることにした。
横なりながら枕の下にあったスマホを取り出し目覚ましを設定するとそのまま眠る。
頭の中で、転移魔法陣がどんなものなのかを想像しながら。