デュエット
次の日。
朝食を食べ終え、家を出ようとすると、
「フェイル、今日からしばらくは暗くなる前には帰ってこい」
父さんがそう言った。
「なんで?」
「最近また物騒になっているからだ。見慣れない人間もちらほら見かける」
「…そうね。昨日もまた行方不明者が出たって聞いたわ」
行方不明者か…。
「お守りを持っていきなさい」
「えー、いいよ。大丈夫だよ。早く帰るから」
「いいから、首にかけておくのよ」
そう母さんに言われ、お守りを首にかけられた。
兄も行方不明になっているし、心配なんだろうが、少し恥ずかしい。
「じゃあ、僕もう学校行くね」
「「いってらっしゃい」」
「フェイル、おはよう!」
学校へ向かっているとルキが声をかけてきた。
「首にかけてんのはなんだ?」
「あぁ、お守りだよ。最近物騒だからって母さんがね」
服の中に入れてたが、ひもは見えているしばれてしまった。
「確かにな。昨日も行方不明者が出たんだろ?こえーよなぁ」
「ルキも気を付けてよ?」
「俺は大丈夫だって!それよりさ、昨日そっちのクラスで小テストあったろ?何出たか教えてくんね?」
「いやいやいや、ダメでしょそれは」
「お前は真面目だなぁ。大丈夫だって!な?」
ばれたら僕も怒られそうで嫌なんだけどなぁ…。
「うーん…。考えとく!!」
「それ教えてくんねーやつじゃん」
「気が向いたらそっちのクラス行くから。じゃあ、僕こっちなんで。またね」
「あ、おい!フェイル!」
逃げるが勝ちである。ルキはこういうときは何を言っても「大丈夫だって」としか言わず、あきらめないからな。
授業が終わり、僕は第3音楽室へと向かった。ちなみに、ルキに小テストについては教えなかった。
音楽室に入るとマクリーがすでにヴァイオリンを準備して待っていた。
チューニングもすでにしたようだ。
「早いね。さっそくやる?」
「あぁ。やろう」
「ピアノソロの曲だけど、どうやる?」
「そうだな…。とりあえず、ピアノのみで、その後は適当に」
適当にって…。不安だけど、まぁやってみるか。
マクリーに言われた通り、まずはピアノのみで弾き始めた。そして、少しずつ音数が増え始めたあたりから、マクリーはオリジナルの対旋律を弾き始めた。すごい。綺麗でかっこいい音使い。ピアノが暗い旋律を弾いている中で、綺麗な対旋律を奏でる。
そして、少しテンポが速くなり、音数がさらに増え始めたあたりで、マクリーも旋律を一緒に演奏し始めた。曲の盛り上がりに合わせて旋律の音量が上がるとともに、各楽器が一つにまとまる。あぁ、ものすごく楽しい。
そうだ!曲調が変わるところで、ヴァイオリンソロにしてみよう。
そう思い、マクリーに目配せをした。マクリーは「なに?」って顔をしていたが、僕が伴奏に移るとすぐに「そういうことか」と察したようだった。
伴奏の音数を減らすとマクリーは自由にアドリブを入れた。これはもう、全く違う曲だ。だが、どこまでソロなのかがわからなくなってしまった。
やばいな、どうしよう。
そんな風に困っていると、マクリーも僕に目配せをしてきた。
あぁ、次のこのフレーズのとこかな、となぜかわかった。
そして、そのフレーズのところから一緒に旋律を演奏後、交互に対旋律を担当し、最後はまたユニゾンで演奏を終えた。
「あーーー、疲れたぁ。マクリー好き勝手やりすぎでしょ」
「いや、フェイルだって突然ソロ振ってきたじゃないか」
「あれは、なんとなくそういう気分だったし、マクリーならやれそうって思ったから」
「はは、そうかよ」
演奏して緊張が解けたのか、さっきよりも話しやすくなった。
それから僕らは色んな曲を演奏した。だが、上手くいかなくて曲が止まってしまうことも多かった。一回目のは奇跡だな。
「そろそろ暗くなりそうだし、帰ろう」
「そう…だな」
マクリーは少し残念そうな顔をしてそう返事をした。
「また、明日もやる?」
「あ、あぁ!やろう!」
嬉しそうだ。マクリーは結構顔に出るタイプなんだな。
今日一日でマクリーとの距離も縮まったし、たくさん演奏もできたしで、いい一日だったな。明日も楽しみだ。