23話
「じゃあ私左の細っこい奴、プリンくんは右のやたらデカい方を頼む。ありゃ私には無理だ」
「了解です、ドジ踏まないで下さいね」
「おぉ、それ誰に言ってる? もしや学校一の天才である私に言っているのかな?」
「はいはい……じゃあ、やりますか」
少年の言葉を合図に二人は飛び出した。風魔法で脚力が格段に上がっているプリンは、地面を一蹴りするだけで標的の懐まで飛び込んだ。小さな体をより小さく屈ませ、視界外から奇襲の一撃を顎へ叩き込む。屈強な体つきをした警備兵の一人は唐突な脳への衝撃に耐えきれず、声ひとつ出せないまま呆気なく床へ崩れ落ちた。
「お、おいどうした急に?」
「ほんとほんと、どうしたんだろうね」
「えっ?」
もう片方の痩せぎすの男は、相方が急に倒れた事に驚き、さらに自身の背後から聞き覚えのない声がした事にさらに驚いてみせた。こめかみに冷や汗が流れるのが見える。しかし恐る恐る振り返っても誰もいやしない。プリンは既に倒れた男の影に身を潜め、一人残された兵士は言葉にし得ない恐怖に襲われる。
「君は幽霊って信じるかい? それともお化け、という呼び方の方が聞き馴染みが良いのかな? まぁ名前なんてどっちでも良いんだ。要件はただ一つ、至ってシンプルな事だからね」
「ひ、ひいぃ」
「死人に呪われる覚えはあるかい? 君個人だけではない、この街の軍部が行ってきた悪行全てに対する怨念、君の体に一つ残らず刻み込んでやろう……!」
姿は見えない、でも分かる。今間違いなくあの人はこの上なく楽しんでいる。ニヤニヤと笑いながら、兵士の首に手をかけ……た所で男は恐怖で気を失ってしまった。体から力が抜け、ぐったりと倒れ込んでしまった。
「おいおい脆すぎるぞ、もう少しホラー小説でも嗜んだらどうだね」
「喋ってないで片しますよ。ほら、二人も見てないで手伝って下さい。コイツ重すぎるんですよ」
プリンに手招きされ、僕とハニーも見張りを止めて二人の元へ駆け寄った。僕はプリンを手伝い、ハニーはソルトと共に顔を引きつらせたまま寝そべる兵士らを転がし、床の隅へ押しやろうとしたその時だ。ファットの扉がギギ、と音を軋ませ、ゆっくりと開かれる気配がした。
「物音がうるさいぞ、何かあったのか……って、何を寝転がってるんだお前たちは」
(ファ、ファット!?)
(静かに)
扉の向こうから現れたのは間違いなくファットだった。円形に近いフォルムや口元のちょび髭、間違いない。意外にも声色は優しげで、街で聞くような耳障りな怒声ではなかった。