22話
「あの、質問いいですか」
夏季の雨日みたく重い空気を打ち破ってくれたのは、やはりプリンだった。なんと言って空気を和ませれば良いのかと頭を悩ませていた僕には、わざわざ挙手までしてくれた少年の事が救世主に見えた。
「高等部にもなって火魔法の……それもこんな小さな火の玉しか出せない人って、結構ざらに居るんですか? 僕のクラスの子でももう少し出来るんですけど」
「ぐふぅっ」
「こらこらプリンくん、君の無垢な言葉の矢が年上を傷付けてしまったぞ? ちゃんとごめんなさいしておきたまえ」
「え? あ、すみません。不躾な事聞いちゃって」
痛い所をつかれた上に謝罪までされてしまった。年上の威厳なんてハナから期待していなかったが、そうも申し訳なさそうにされると心が痛くなってくる。初等な火魔法しか使えずこちらこそ申し訳ない。 僕がそんな事を思っていると、ハニーが手を差し出しサラを返してきた。その顔は仮面のせいで全貌こそ分からなかったが、やはり何処となく申し訳なさそうに見えた。
そりゃ転移魔法やら、風魔法による強化なんか見た後じゃ輪をかけてしょぼく見えるだろう。もし僕がマナくらい魔法が使えたなら、こんな気持ちになる事も無かっただろうな。したって意味無い妄想だけど。
「全員静かに、見つけた」
サラに礼を言って体内へ戻した後、ソルトの指さした先を見た。そこには確かに他のどれとも違う豪奢な装飾のドアがあり、両脇には警備が一人ずつ張り付いていた。決められたルートをぐるぐる回っているだけの他の場所に比べると、随分厳重な守りをしている。二人居るため、プリンの闇討ちも上手く決まらないだろう。見た感じ侵入は簡単にいきそうには思えない。どうやらソルトも同じ思いだったらしく、辺りを見渡しどうしたものかと思案を巡らせていた。
「部屋の中に転移してみる? 時間はかかるけど、多分座標自体は割り出せるよ」
「いやダメだ、あの調子じゃ部屋の中に奴がいるのは間違いない。わざわざ目の前に転移してやったんじゃ、虎に餌をやるようなものだ」
「じゃあソルトさんがさっきやっていた透明化と、僕の風魔法で一人ずつ相手にするのはどうですか。多分それが一番ですよ」
「よしそれで行こう。無理そうだったら即退避な」
言うが早いか、ソルトは二種類の呪文を合わせて唱え始めた。
「『マジカ・フラム』んで、『マジカ・グラス』っ!」
詠唱と共に彼女の両腕に、左右それぞれ赤と青の魔法陣がゆっくりと回転しながら現出した。ソルトは文字列に誤りが無いことを確認し、勢いよく両腕を組むとあっという間に彼女の体は熱差による蒸気に包まれ、姿を廊下の薄暗さの中に消してしまった。影もない。そこにいる事を事前に知らない限り、僕もその存在に気付くことは出来ないだろう。
「よしっ、準備完了。プリンくんもいけるかい?」
「いつでもどうぞ」
同時に風魔法による自己強化を済ませていたプリンも、魔法の具合を確かめるように体を素早く飛び跳ねさせ、彼女に返事をした。二人が作戦を実行する間、僕とハニーは物陰で待機。正しくは廊下に見回りの警備が来ないか見張っている。各々の役割分担はバッチリだ。