18話
いざ進むとなった時、僕の手を引いて前へやってきたソルトは自身の創作魔法で姿を消してしまった。火と水魔法の合わせ技で蒸気が云々……と長ったらしい説明があったが、イマイチ意味が理解出来なかったので割愛させていただく。三年にもなると、魔法化学の授業も困難を極める。そんな中課題を余裕でクリアし、その上遊び半分で作った魔法らしいが、影すら完全に消え失せるのだから凄い出来だ。
「まぁそのせいで僕が格好の的になってるんですけどね……」
「そう言うなよ。ゆっくり歩いて耳を澄まし、注意深く視線を配ればある程度の危険は未然に防ぐことが出来る。それは理解しているだろう?」
「そりゃそうですけど」
ソルトの言う通り、廊下を行き来する警備たちの足音や気配を察知する事が出来れば、すぐさま後ろの二人にも伝え、ここまで対峙する事無く平和な道のりを進めている。ビビりで後ろ向きな自身の性格はあまり好きではなかったが、今ばかりはその慎重さが有難い。隣のソルトも何だかんだ頼もしいし、案外目的もあっさり達せられるかもしれない。
僕がそんな甘い考えに囚われている間に、廊下は曲がり角へ差し掛かった。後ろの二人に止まるよう合図を出し、恐る恐る角の影から顔を半分だけ覗かせた。恐らくソルトもそうしている。何せ姿が見えないせいで確証は無いが、しゃがんで見やっている僕のフード越しの頭に手が置かれているので、恐らく一緒に見てくれているのだろう。
「……大丈夫そうですかね」
「あぁ、敵影無しだ。二人とも速やかに着いてきたまえ」
「「はいっ」」
建物内には様々な調度品が置かれていた。先程の壺も含め、そのどれもが一様に高そうな代物で、少なくとも街の他の場所ではお目にかかれないような高級品ばかりだった。シャンデリアなんて教会にだってありはしない。
廊下に並び建てられた部屋の殆どは軍部の兵士たちの寝室らしく、どのドアを開けても皆似たような内装をしており、当たり前と言うべきかろくな物は無さそうだった。その癖どの部屋にも食べ物のカスや、お酒のビンなんかが沢山転がっていて、軍部がどれだけ贅沢な暮らしをしているのか一目瞭然だった。不意にベッドで眠りこけていた兵士たちが、寝言をボヤきながら寝返りを打つ度、ハチャメチャに胸の鼓動が早くなる。
(あ、あんまり物音立てないで下さい! 起きたらアウトなんですからね!)
(君だってさっきビンを蹴飛ばしていただろう!? 起きたらペッパーのせいだ)
(それ前の部屋の話でしょ! 人のせいにしないでください)
(むむむ……ふふん、そんな口を聞いても良いのかね? 私の姿が消えている事をお忘れかな? もしコイツらが起きたとしても私はスルーされ、君を捕まえる為に一直線さ)