14話
「……チッなんだ猫か。つまんねーな」
(セーフ!)
門番はつまんね、と何度も呟きながら自らの持ち場へとノソノソ戻っていった。その間に僕もこの場から逃げようと、屋敷とは逆側にするがまたもエウレカが阻んできた。今度は肩と肘を掴み関節技を決める構えだ。魔法使いが関節技って、そりゃ無いよ。
「さっ戻ろうか? カビトくん。返事はにゃあ、だ」
あと一歩でも逃げようとすれば、どうなるか分かるな。目がそう語っていた。眼球にそう書いてあるのだ。矮小な一市民である僕が、この脅しにも近い注文を断れるはずもなく、諦めて腰を下ろし「にゃあ」と鳴いてやった。エウレカは満足そうに頬を歪め、そのまま引きずって二人の控える元居た場所へと戻っていった。
「えっ、さっきの猫ちゃんってカビトくんだったの?」
「ぷふっ」
エウレカがつい先程の事を話すと、フラウは驚きタクミは顔を逸らして笑った。僕の顔は羞恥で真っ赤だ。
「それはそれは見事な鳴き真似だった。おかげで助かったのだからそう照れるなよカビトくん。あれは紛れもなく君の功績、誇っていいんだよ? ほら、試しにまた鳴いてみたまえ」
アレだけドン引きしてたくせによく言う。いつだって不遜な笑みを浮かべているエウレカに、アレだけ冷めた目を向けられる事はこの先きっと無いだろう。というかあったら困る。
門番は自身の持ち場に戻り、壁にもたれかかって欠伸をしている。屋敷の周りは高い壁で囲まれていて、ジャンプした程度では到底登ることは出来ない。無論魔法を使えばその限りではないだろうが、どうやら革命団の人たちにそのつもりは無いらしい。茂みを進み壁の方へ近づくでもなく、延々とエウレカとタクミが門番や屋敷の周りを注視し、その間フラウが熱心に地面に文字を書き連ねていた。謎の文字列はどうやら計算式らしいが、僕が読める代物ではなく、足しているのか引いているのかすらまるで分からない。
自分で書いているだけあって、彼女自身はキチンと理解しているらしく、謎の文字たちと真っ直ぐ向き合い、問の答えに向けて必死に計算を続けていた。僕はといえば、その間夜空を見上げていた。何せ我らが魔法学校を代表する面々が並ぶ中で、一体僕に何か出来るというのか。何か出来ることは無いかとウロウロするのも虚しい。なのでいっそ割り切って綺麗な夜空を楽しむ事にした。
「いつも夜は自室にいるんですけど、たまにはこういうのも良いですね」
「この辺は星も綺麗に見えるしな。私も魔法の実験がてらこの辺に来ては夜空を眺めるんだ。成否を問わず清々しい気分になれるからね」
「えっ」
この辺、つまり外で魔法の実験? そりゃもうガッツリアウトだろう。言い逃れも出来ない違法行為だ。今ならこれをダシに軍部に駆け込めば、更なる犯罪行為の防止とかいって僕だけでも助かるんじゃないか?
「ちなみに寝返ろうなんて夢にも考えるなよ。そんな事すれば君に呪いをかけてやる。魔法学校の教師たちが呪文の名前を聞くだけで卒倒するような、ドぎつい奴を何重にもかける。必ずな」
「ははっ、まさかここまで来てそんな事する訳ないじゃないですか。持ちつ持たれつ、助け合って行きましょう? ね? ホントに」