11話
拍手をしていたフラウが心配そうに眉をひそめ、エウレカの顔を見やった。当のエウレカは肩を竦めそうだったっけ、と悪びれもせず鼻歌を歌っている。それを見たタクミが、肺の中身が全部出るんじゃないかってくらい大きな溜め息をつき、僕の方にゆっくりと向き直った。
「ボンクラ先輩の不備については、ごめんなさい。この人はこういう適当な所が中々直らないタイプの人間なので。これでも僕らのリーダーなんですけど」
「誰がボンクラだって! 学校一のスーパーガールに対し、なんて言い草なんだこんにゃろう!」
「エウレカちゃん、しー」
タクミくんは、顔は少し怖いが言葉遣いがとても丁寧で、声変わりの済みきってない高い声が聞いていて心地良い。エウレカの突拍子も無い発言に大いに混乱していた僕の脳内が少し落ち着きを取り戻してきた。
「我々は革命団といって……まぁ括りは部活みたいな物です。人が集まり、活動する。活動内容は主に軍部をぶちのめし、この街に平和を取り戻すこと。で間違い無いですよね、エウレカさん」
「そう、その通りだタクミくん。日頃口にタコが出来るくらい言って聞かせた甲斐があったというものだ」
年下の説明に満足そうに頷いたエウレカ、僕はといえばもう絶句してしまった。口から声一つ出てきやしない。人って驚くと声帯が何処かに飛んでいってしまうらしい。
「軍部なんて存在、百害あって一利なしだ。住民から高い税金を巻き上げ、その上街の至る所で好き勝手暴れ回る。魔法の自由使用をあそこまで悪用する連中は他に無い! 故に我々がそれをぶちのめす。悪事を表にバラし、彼らの元締めである中央都市本部に訴えかけてやるのさ」
緑の目が爛々と輝いている。僕と二つしか歳の変わらない先輩は、到底理解出来ないような思考回路を持ち合わせていた。彼女の熱を帯びた語気のせいか、凍りついていた僕の口元が段々と溶け、喉元に留まっていた戸惑いの言葉が漏れるように出てきた。
「え、いや、でも……そんなの、どうやって……?」
「そりゃ勿論、中に侵入するのさ。奥に秘められている黒ずんだ中枢が拝めるくらい深くね。団員も増えたし、早速今日行ってみようか。異論は?」
そして遂に決壊した。溜め込んだ分、爆発するのはあっという間だった。
「いやありますけど!? 軍部に逆らうなんてしたらタダじゃ済みません。下手に手を出したって返り討ち、住民権を失って街からほっぽり出されるのがオチです!」
僕はもう必死だった。フラウが静止する声を無視し急いで席を立ち、転移魔法の掛けられた壁に向かって駆け出した。薄らと魔法陣の浮かんだ壁に手を当て、魔力を流す。けど何でか上手く作動しない。魔力が足りないのか、焦れったさのあまり体が熱くなってくる。額に汗が浮かび、吐く息が火のように熱くなる。
「そうならないよう、こうして学校随一の才能を持った連中を集めたんだけどなぁ……分かり合えないものだね。ねぇ二人とも」
「エウレカちゃん、可哀想だよ。やっぱり帰してあげよう?」
「でも革命団の事喋っちゃったし、今更帰すのもなぁ。フラウ、記憶消す魔法とか無いかい?」
「あぁ、それね。前に一度試してみたんだけど、すっごい難しくて。今度エウレカちゃんに聞こうと思ったの。忘れてたけど」
「あっはっは、フラウは抜けてるなぁ」
抜けているのはアンタの方だと思わず横槍を入れたくなる。主に常識と倫理観に関して。というか本当に作動しない、いい加減体内の魔力が尽きるってくらい注いでいるのに、うんともすんとも言いやしない。やっぱり習ってもいない魔法を独力で動かそうだなんて無茶だった。