プロローグ
教会の鐘の音が鳴った。それを合図に僕は敵に飛び込んだ。全身を魔法の炎で包み次々攻撃を打ち込んでいく。敵も負けじと水や土の壁で攻撃を阻み、隙あらばカウンターで魔法を打ってくる。まさに一進一退、自分も敵も体をボロボロにしても尚続く激烈な勝負だった。
「よぉ、そろそろ諦めて降参したらどうだ」
距離を置き、敵に言葉を放る共に口から火が漏れた。乱れた息すら燃える炎のように熱い。口調も普段の自分とは大きく違い、まるで僕が僕じゃないようだ。敵もこの勝負に興奮を覚えているのか、息を切らしながらニヤリと頬を歪ませた。弛んだ顔中に汗が絶え間なく流れていたが、視線はしっかりと僕を捉えていた。
「ここまでやるとは思ってなかったぞ。正直舐めていた、だがそんなお遊びはここまでだ……これを見ろ!」
敵がそう言って掲げた手の中には、彼女の姿があった。白髪の頭には血がべっとりとこべりつき、ピクリとも動かない。先の戦いでボロボロに果て、掴まれた手を振りほどく気力すら残されていない大事な仲間の姿が。
「エウレカ!」
「いやはや、こんな在り来りな脅しを使うのは気が引けるが致し方ない。少年、君が次に攻撃するのと、私がこの女を殺すの、どっちが早いと思う? 方法は問わない、水魔法で呼吸器を塞ぐのも良い、風で喉元を切り裂いても良い。私の自由だ、そうだろう?」
敵は実に狡猾な男だった。人質を取られてしまえばいかに僕の力が強くなろうと関係ない。抵抗の余地もなく、僕は歯を食いしばった。体を包む炎は悔しさでより一層熱く揺らめき、火花がパチパチと音を鳴らしている。
「実に惜しかったな少年、あと一歩だったがこれで私の勝ちだ。我が詠唱と共に、出でよ雷竜『デガマホラ・ライデオン』!」
敵のもう片方の手が僕を捉え、幾つもの魔法陣が僕の四方を囲むように現出した。トップスピードを出せば躱すことは出来る、だがそうすればエウレカが殺されてしまうかもしれない。もしかすれば生き残るかもしれないが、仲間の命を賭けの天秤に乗せる事は僕には出来なかった。
「言い残すことは?」
魔法陣から暗雲が僕を囲むように立ちこめ、雲の中で雷が反響し段々と威力を増していく。当たれば即死の巨大な一撃が獲物を食い殺さんと力を貯めているのが分かる。そんな中、僅かに残された視界の中に敵の……見るに堪えない程肥えた男の顔が見えた。
「クソ喰らえ、ブタ野郎」
「んふふっ、じゃあな少年!」
男が指を鳴らし、雲に往生していた雷の竜がが一斉に僕目掛け襲いかかってきた。あと数瞬で僕の命は尽きる。どれだけ覚悟を決めようと、死を前にすれば怖いに決まっている。僕は強く目を瞑り、せめて仲間だけは無事である事を祈った―――