ざまぁみろだって? ふざけんな!!
大勢の中にポッカリ空いた空間に女子3人を侍らせたハーレム男子グループと、対面に1人呆然と佇む女子がいる。
1人でいる女子の足元には払われ地面に落ちた弁当袋が空しく落ちていた。
ハーレム男子が大声で叫んでいる。
「今更擦り寄ってきたって遅いんだよ!! ざまぁみろ!!」
揉め事が起きてる場所へと、人を掻き分けて向かう最中聞こえ俺は怒りに震えた。
「ふざけんな!! なんでお前にざまぁみろって俺の彼女が言われないといけないんだ!!」
そう、1人佇んでいた女子は俺と付き合って半年の夜野さくら。
ハーレム男子はさくらの幼馴染だった男、只野仁志。
俺とさくらが付き合い始めてから、あれこれ努力し始めてハーレムを形成した男だ。
さくらの事ははっきり言って一目ぼれだった。
あっ、この娘好きだって思ってからしばらくの間は悩んだ。さくらの傍には只野がいたからだ。
だけど、よくよく見ていると、さくらが只野に構うのは幼馴染の付き合いの延長のようで只野はさくらの事を邪険というか
、すこし煩わしいですよ風な態度を取っている為、頑張れば俺の事を好きになってもらえるのではと一念発起し滅茶苦茶努力し結果、見事付き合うことが出来た。
怒鳴られて恐ろしかったのか涙目のさくらに「もう大丈夫だから」と声をかけ彼女を背に隠し只野に向き合う。
背中に寄りかかられる感触を感じ、頼られている事に不謹慎だが嬉しさを感じてしまう。
「ふん。何だよ僕に拒否されたらすぐに捨てようとした男へ戻るのか?」
は? コイツ、何言ってやがる?
「いいか? 柏木幸太。さくらはお前を捨てて僕の元に来るつもりだったんだよ!」
「そんなわけないだろ!!」
「そんなわけあるんだよ、足元見てみろよ。弁当があるだろ? さくらが俺に作ってきたんだよわざわざな!!
手作り弁当作って僕に渡せば僕の元に戻れるとでも思ったのか?残念でした!僕には鈴歌の」
「これはお前の母親が作った弁当だ!!」
勝ち誇ったようにニヤッと嫌らしい笑みを浮かべながら話す只野の言葉をぶったぎって俺は真実を告げた。
そう、さくらが渡したのは只野の母親が彼女に届けてくれるように頼んだ弁当で、決してさくらの手作りではない。
只野は、は?っという表情を一瞬したがすぐに取り繕う。
「嘘だな。僕は母さんに今日の弁当はいらないと言ったぞ!」
「そんなの知るか! 頼まれてる所に俺もいたんだよ! そもそも自分の弁当箱くらい見覚えあるだろう!!」
そういって弁当袋から弁当箱を取り出し只野に見せた。
どうやら見覚えがあったようで顔色が悪くなっていく。
……この際だ、全てはっきりさせてやろう。
「お前、さくらのスマホにアプリを仕込んだな?」
「な、なにを証拠に!!」
「さくらのお母さんが言ってたぞ。この間さくらが風呂に入ってる時に訪ねてきて会わないまま帰って行ったってな。
娘の幼馴染だからつい部屋に通してしまったって」
「そ、それがどうした! 監視アプリを仕込んだ証拠にはならないだろ!!」
「……アプリとは言ったが、誰も監視アプリなんて言ってないが?」
「うっ!!」
こんな古典的なひっかけに引っかかるなんて馬鹿で助かった。
ひっかかってくれなかったら状況証拠を並べて問い詰めるしかなかったからな。
「おかしいと思ったんだよ。さくらと俺が2人でいる時は勿論、さくらが1人でいる時もお前とそこの3人が近くに現れたんだからな。
一度や二度ならまだしも何回も続いたから、もしかしたら何かの方法でさくらの行動を把握してるって思ってな。それで手始めに一日だけ俺とさくらのスマホを交換したんだよ。
街に出て変装して隠れてたらお前が現れた、しきりにキョロキョロしてたな、誰を探してたんだ?」
只野は何も返せずに黙り込む、顔色は青を通り越して白くなっている。
「お前のやってることはストーカーで立派な犯罪だぞ」
「……るさい」
「なんだよ、はっきり言え」
「うるさい!! だからどうした!! お前がさくらを寝取るから悪いんだろ!!」
只野のその言葉に俺は我慢していた怒りが爆発した。
思わず殴り掛かろうと飛び出しそうになったところ、さくらに後ろから抱きしめられ動きをとめられた。
「さくらっ!! 放してくれ! あいつをボコボコにしないと気が治まらない!!」
「ダメッ! 暴力を振るったら幸太が退学になっちゃう!!」
「だけどっ!!」
だけど許せないだろ!! 寝取るとかふざけた事言ったんだから!そもそもさくらは――――
「さくらはお前のモノじゃない!!」
ふざけるなよ!!
「何が寝取るだ! お前とさくらはただの幼馴染で付き合ってもないだろうが!!
ただの幼馴染のくせに一丁前に盗られたなんてぬかすな! 勝手に傷つくな! 勝手に恨むな!!」
「ただの幼馴染なんかじゃない! ずっと一緒にいたんだ! あとから入ってきたお前が奪ったんだ!」
「一緒にいただけだろうが!! お前はただ、共にいることが当たり前だと勘違いしてただけだ!!」
「ぼ、ぼくが先に好きだったんだぞ!!」
「それこそ知ったことか!! お前は何もしてないし、しようともしなかった! 好きだったら行動すべきだろ!! 伝えるべきだろ!!
そんな事もしないでお互い言わなくてもわかるよねって思ってたら大間違いだ! エスパーじゃねえんだよ!!」
はあ、はあと息を切らす。大声を出して少し冷静になってきた。
……向こうは俺の勢いに呑まれて勢いを失くしているようだった。
「俺は努力したぞ。好きになってもらうために身嗜みをきちんと整えたり、読書が好きなさくらと話をするために本を死ぬほど読んだり、頼って貰いたいから参考書買って勉強もした。
お前が彼女と一緒にいた時はどうだ? 前髪で目が隠れる程のボサボサの髪型で、教室でさくらがしきりに薦めてた本も一瞥もせずにいただろ。変わったのはさくらが俺と付き合ってからだ、遅いんだよ」
人を好きにさせるくらいの魅力だってコイツはあったはずなんだ。現に3人の女子が傍にいるんだから。
ちゃんと動いていればさくらだってきっとコイツを好きになったはずだ……想像だけでも嫌だけど。
嫌な事を想像して顔を顰めていると、背中に抱きついていたさくらは腕を緩め俺の隣に並び立った。
ボソッと「幸太、ありがとね」と言ったのが耳に届いた。
「仁志、ううん。只野くん、ゴメンなさい。わたしが変に世話を焼いたせいでこんな事になってしまって……。
小さい頃はね……多分、只野くんの事が好きだったと思う。でも、いつからか只野くんはわたしを邪険にするようになって……そこで離れれば良かったのに。
なんかもう姉みたいな気分で世話しないとって思ってた。それがいけなかったんだ、ゴメンね……」
只野はさくらの言葉に目を背け「だったらずっと世話してくれよ」と呟く。
「それはできないんだ。わたし、好きな人が出来たの。わたしの為に一生懸命になってくれて、何をしてもありがとうって伝えてくれて、いっぱい好きだよって言ってくれる素敵な人なんだ。
その人はわたしの為に変わってくれようとしてくれる人だから、わたしも変わりたいって思うんだ。だから、只野くんと幼馴染でいるのはこれでおしまいにする。おばさんに頼まれても関わったりしない」
遠くから教師達の声が聞こえる中、只野はガックリとした様子で座り込み、教師が到着し連れて行くまで動かなかった。
その後、それぞれ連れて行かれ教師による聞き取りをした結果、反省文提出の厳重注意という処分を受けた。
同じ処分を受けた、あの場にいてさくらを睨んでいた只野のハーレムメンバーはどうやら只野から聞いていた話と違っていたようで謝罪し、それをうけさくらは彼女たちを許した。
ただ、只野の行為は悪質という事もあり停学処分となり親にも説明がいったようで只野の両親がさくらと、さくらの両親に深く謝罪し
只野は一駅先にある祖父母の家に引越しする事になったようだ。厳しい人達らしく、きちんと只野を見てくれるらしいので安心だろう。
学校生活はしばらく針の筵だろうな……万が一いじめに発展したらフォローはしなきゃな、さくらが悲しむし。
「待った?」
「全然、待ってないよ。 じゃあ、行こうか」
「うん」
彼女の到着を待って一緒に下校する。
他愛もない話をしながら帰る、この一緒にいれる時間を一秒一秒大切にする。
握った手も離さないし、彼女の隣だって誰にも渡すつもりはない。
その為には努力だって欠かさずにする。
キラキラした笑顔で笑うさくらを見つめてふと「好きだな」と言葉が零れた。
「わたしも。わたしも幸太が好きだよ」
うん、絶対に誰にも渡さない。