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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと小さな故郷

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第5話「着地点」

 胸がちくりとする。今も納得がいっているわけではないが、少なくとも自分の行いについてはハヴェルもよく理解していた。「で、どうするの?」とシャルルに詰め寄られて、彼はうつむきがちにか細い声をして答えた。


「謝るよ、ちゃんと謝る。……俺が悪かったよ」

「ん、よろしい! じゃあいっしょに戻ろう。ローズも待ってる」


 さあ帰ろうと背を向けたところで、ハヴェルは「でも」と言葉を投げる。


「俺はやっぱり……女のひと同士なんておかしいと思う」

「だったらローズを諭してみたらいいじゃないか」


 否定はしない。間違っているかどうかもシャルルには分からない。確たる根拠もなく、彼女は否定をしたくなかった。それでも強気な姿勢は崩さずに。


「間違っていると思うなら君が行動で示すべきだ。……弱いままの自分でいたら、たとえどんなに時間があったって意味がない。後悔してばかりになる。昔の私がそうだった。でもローズが変えてくれた。ボクをありのままでいさせてくれた」


 ヴェルディブルグ王家の人間として母親の言う通りに生きることがすべてで、好奇心に身を任せることさえ許されなかった。面白くなくて、悲しくて。鳥かごの中で生きるのが宿命なのだからと諦めて外の世界を羨み、ただ塞ぎ込む毎日。そのすべてを魔女が変えた。彼女のなかに優しさと勇気が溢れた。


 魔法にでも掛けられたかのように。


 それからの人生は常に彩りに満ちている。ローズと共に旅をした場所のひとつずつが新鮮で、強烈で、時が経てば様変わりしている街並みには飽きが来ない。たった一歩を踏み出そうとした気持ちひとつが、彼女を大きく変えていった。


「だからね、ハヴェル。これだけは言うよ。君が正しくても間違っていても、ボクの人生のなかで初めて──他人のことが本気で嫌いになりそうだ。でも、この嫌いはきっと……ローズを君に奪われたくないからだと思う」


 すこしだけ胸が苦しく感じたのは、はじめて彼女が他人に向けて〝嫌い〟という言葉を使ったからだ。それでも引き下がる気はなく、決意のもと手を差し出した。


「仲良くなんてなれないかもしれない。友達になろうなんて言うつもりもない。でも、良いライバルにはなれると思うんだ。お互いをよく知らないとしてもローズのことが好きな気持ちはいっしょだろ。ボクたちはそれでいいんじゃないかな?」


 村にいるあいだ、どれだけ嫌でも顔を合わせることは多いだろう。そのたびにストレスを溜め込んでみたり、今日のように不満をぶつけてしまうようでは、自分たちだけで済む話ではなくなってしまう。彼女なりに考えた末に選び抜いた着地点だ。


「……強く言いすぎてごめん。あんたの言う通りかも」


 どうしてローズがシャルルを選んで連れて来たのかが分かった気がして、わずかな悔しさが胸に落ちる。彼は求められるままに固い握手を交わす。


「でも俺、ローズさんのこと絶対に諦めないから!」

「ふふ~ん。ボクだって負けないよ。じゃあ、とりあえず帰ろうか?」

「あ、ああ。そうだな。……意地張って悪かったよ」

「あはは、気にしてないよ。ほらほら、はやく行こう!」


 来た道を引き返していく。今度はシャルルのほうが、うさぎや鹿のように足取り軽やかだ。泥で汚れた服などすっかり忘れて気にも留めていない。ローズは彼女を見て、とても嫌そうな顔を向けた。


「ただいま、ローズ! 無事に話ができたよ!」

「待て。泥だらけの服で近寄るな。……おい、なんだその顔は」

「頑張ったのにひどいなあって思って」

「……私の家に来い、着替えを用意してやる。それからハヴェル」

「あっ……えっと、その、ごめんなさい……」


 きっと怒られると思って先に謝るが、彼女は首を横に振った。


「謝罪は要らない。先に集会所に戻っていてくれ、あとで話そう」

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