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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと炭鉱の令嬢

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第39話「また来たときには」

 ふたりが馬車に乗るのを待って、マルコムは御者台に座るローズに「お気をつけて」とまた深く頭を下げた。


 荷台にはたくさんの食糧や毛布が積まれている。


「ずいぶん積み込まれているようだが構わないのか?」


 良い笑顔でマルコムは頷く。二枚目な顔立ちがより整っているふうに見えた。


「はい、フレデリク様から『今回の件について気持ち程度にはなるが』と伝言を預かっております。お気兼ねなさることはありません。どうか良い旅を!」


「ああ、また会おう。夫妻によろしく伝えておいてくれ」


 馬車が走り出す。ブリンクマン邸を出て、目指したのはミランドラの外だ。馬たちが意気たっぷりに蹄で地面を蹴って馬車をがたがた揺らした。


「全部終わったんだね。なんだかすごく大変だったなあ」

「だが悪くない時間だったろ。良いものも見れた」

「へへっ。そんなこと言っちゃって、最初は断ろうとしてたのに」

「掘り返すな。結局は受けてやったじゃないか」


 こほん、と咳ばらいをして気まずそうにするローズを、シャルルがけらけら笑う。


「それはたしかに!……あ、そういえばローズとずっといっしょにいた、あの女の人は誰だったの? いつのまにかいなくなってたみたいだけど」


 すらりと背が高く、ボブヘアに整えた金髪に紅い瞳を持つ美しい女性。ブリンクマン邸でも見覚えのないメイドについて彼女が「とてもきれいな人だったよね。仲良さそうだった」と露骨な詮索をする。すぐにシトリンのことであると察した。


 夜、戻ってきたときに宿の外でふたり話していたのが気になっていた。


「信じてもらえるなら話してやってもいい。どうするね」

「ボクがローズを信じないって言うと思う?」

「だろうな。ただの知り合いだよ、今度お前にも紹介してやろう」


 正直なところあまり会わせたくない相手ではあったが、いずれはどこかで顔を合わせることもあるだろう。ややこしい話に発展してしまうよりは、先に認識しておいてもらうほうがいい。シャルルもそれに納得したようで──やや渋々な感じはあったが──彼女もホッと胸をなでおろす。


(やれやれ。まさか本物の悪魔と言っても信じてもらえないだろうしな……いや、それとも信じるか。世界にひとりだけの魔女が目の前にいるんだから)


 百年以上生きてきて、ひさしぶりにひやりとした気持ちにさせられた。そうして馬車がミランドラの町中を走り抜けていくなか、「待って!」と呼び止める声があり、ローズは馬車を止めて、そのすがたを見ようと振り返る。


「なんだ、ゾーイか。どうした、なにか困ったことでもあったか」

「どうしたじゃないよ。何も言わずに行くつもりだったの?」

「……まったくもって、そのつもりだったが」


 ゾーイがあからさまにがっかりしたような顔をしてため息をつく。


「黙って行かないでよ。……寂しいじゃん」

「ハハ、すまないな。ペトラとの時間を邪魔しては悪いかと」


 シャルルも荷台から顔を出して、ゾーイに微笑む。


「そうそう。せっかくこれから親子で過ごせるんだからね」

「……でもアタシ、ちゃんとお礼だって出来てないからさ」


 正式に契約を交わしたわけではなくとも、ローズが自分のためにどれだけ苦労を重ねてきたかを見ている彼女としては、何か報酬のひとつでも用意すべきだと思っていた。そこへ宿の経営がこれからも続く祝いとしてジャファル・ハシムの工芸品まで山のように届き、どうしてもなにか返礼がしたいと呼び止めた。


 だがローズは「必要ない」とはっきり言いきってから。


「すでにもらっているとも。気にするな」

「え? アタシ、別になにも渡してなんか────」


 ローズが首を横に振って、にやりと笑う。


「お前が作った菓子は美味かった。また訪ねたときにはよろしく頼む」 


 馬車は再び走り出す。ひとりの少女が名残惜しそうに見送るのを背にして。

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