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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと炭鉱の令嬢

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第35話「生きたいように」

 そのあとの返事を聞いて、ローズたちは静かに部屋へ戻った。ベッドに座り、今度こそ全てが終わったのだと安堵した。軽く目をつむってみれば、まだふたりの幸せそうな表情が焼き付いている。


 それだけで、心から温かな気持ちになれた。


「良かったね、ローズ。上手くいったみたいで」

「ああ。これで心置きなく私たちもまた旅に出られる」


 最初はあれほど嫌がっていたのに、今ではすっかり物語の結末に辿り着けたことを喜んでいる。心底疲れはしたものの、それはそれで悪くないものだ、と。


「……昔、父に言われたことがある。〝お前の生きたいように生きなさい〟と」


 ベッドのうえに放り出されていた分厚い魔術書を手に取って、ざらつく表紙を優しく手で撫でながら、ローズはずいぶんと遠い昔のことを思い出す。


「私が魔女を受け継いで旅に出ようとしたときの話だ。まだ私も若かったからか、父は寂しそうにしていたが、絶対に反対したりはせずに背中を後押ししてくれるひとだった」


「だから、ローズもペトラたちのために色々と?」


「ああ。ありがた迷惑かもしれないが、そういう選択肢もあっていい」


 今でも胸に抱いている言葉がある。ローズが両親と過ごした短い時間のなかで、どんな言葉よりも記憶に焼き付いている父親の言葉。


『お前の人生は、お前以外に責任が取れるものじゃない。だから、どんなことでも自分が幸せだと思う道を選べばいい。お前の生きたいように生きなさい。もしなにかで困ったりすることがあれば、私は必ずお前の助けになってあげるから。約束だ、ローズ』


 結局、その後に再会することはなかった。ローズが魔女となって旅を始めて三年と経たないうちに、彼女の父親は病によって他界した。葬儀のときには父の眠る棺桶に向かって呪いのように『今が困っているときだろうに、何を眠り呆けているのか』と胸のうちで唱えたのを、彼女は今でもよく覚えている。


(なあ、どうだ。少しは見習ってみたつもりだが。──存外悪くないものだろう? あなたがいつも気に掛けていた娘も少しは立派になったと自慢させてくれ)


 本を開き、ページをぱらぱらとめくって、魔法陣の描かれたページの真ん中に指を置く。紫煙がふわりと舞い、ローズとシャルルにまとわりついた。


「さあ。良いものも見れたことだし、私たちもゆっくり眠るとしよう」

「ふふ、そうだね。……あ、ねえ。じゃあ、これってよく眠れるおまじない?」

「その通り、酔いつぶれたみたいに眠れるぞ。明日はゆっくり起きよう」


 ベッドにもぐりこみ、部屋の灯りを消す。窓から差し込む月明かりをぼんやりと眺めて大きなあくびをひとつした。


「なあ、シャルル。もういっしょに旅をして二年になる。ときどき、つまらないことで言い争ったこともあったな。……聞かせてくれ、後悔してないか?」


 なんとなくだった。ペトラとゾーイのやり取りに感じるものがあったのか、そんなことを尋ねてみたくなったのだろう。シャルルは小さく噴き出すように笑って。


「するわけないよ。だってあなたが世界でいちばん大事だから、ボクもその本を手に取れたんだ。ささいな喧嘩なんて誰にだってあるものさ、いまさらだよ」


 ごそごそとベッドのなかを動いて、ローズの腕にぎゅっと抱き着く。それから少しだけ、ほんの少しだけ恥ずかしそうに頬を紅く染めながら。


「誓ったっていいよ、あのときみたいに口づけをして」

「ハハ、それはまた今度に取っておこう。あれは特別(・・)だからな」


 シャルルに寄り添うようにして体勢を整え、深く目をつむり、優しく額にキスをする。


「今日はもう寝よう。おやすみシャルル、今はこれで許してくれ」

「むう、仕方ないなあ。……我慢する。おやすみ、ローズ」

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