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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと炭鉱の令嬢

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第25話「魔女と取引を」

 鉄の意志をもってローズは炭鉱をあとにする。ペトラとゾーイのふたりを連れて歩き、労働者たちの目からも離れたところで彼女は叫んだ。


「シトリン!! 仕事の時間だ、出て来い!」

「……は、こちらに。例の男は捕らえております」


 何もない暗闇から突如現れた女のすがたにペトラがゾッとする。一方で、ゾーイは彼女が何者なのかを即座に感じ取って険しい表情をみせた。手は男の髪を掴んで引きずっており、既にずいぶんと痛めつけられたあとなのか傷だらけだった。


「なんだ、思ったよりもひどい傷のつけ具合だな」

「抵抗がありましたので。殺してないのですから問題ないはずです」

「ま、いい。ちょうどよかった、その男をエサ(・・)にしよう」


 彼女の瞳には悪意にも似た感情が宿っている。それまで無表情だったシトリンも目を丸くして意外そうにするほどで、そこに起きた決断を受け入れるまで数瞬あった。


そういうのは(・・・・・・)お嫌いだったのでは?」

「ああ、嫌いさ。ただし必要であれば話は違う」


 ローズが指をぱちんと鳴らす。紫煙がシトリンにまとわりつく。


「いつも思うんですけど、ちょっとけむたくはありませんか」

「我慢しろ。今からお前はその男の代役になってもらう」

「……あら、なるほど? それは面白そうですね」


 外見が傷だらけの男とそっくりになる。ただし、そう映るのは普通の人間だけだ。魔法を掛けた本人であるローズ、そして悪魔であるシトリンとゾーイには、普段となにも変わらない。「これで本当に大丈夫なんですか?」と問いかけるくらいだ。


「ペトラ、どうだ。シトリンの見た目は」

「……本当に変わってみえます。でも、これになんの意味が?」

「お楽しみさ。この世でもっとも恐ろしいショーが見られる」


 目指したのはミランドラの町はずれにある列車用の石炭倉庫だ。昼間以外では誰もおらず、人目を避けての取引に使うには適している。目立ちたくないディロイにはちょうど良いのだろう。それはローズにとっても好都合だった。


 道中、宿の前を通り過ぎるときにハンナが外で待っているのを見つけた。


「魔女様! これからどちらへ向かわれるんですか?」

「ディロイに会いに。ハンナといったか、お前は屋敷に戻っていろ」

「わ、わかりました。ソフィア様にはなんと伝えておけば」

「フレデリクは必ず無傷で連れて帰る、と。魔女の威信にかけて」

「……はい! あとはお願いします、魔女様。どうかご無事で!」


 ハンナと別れて指定された倉庫へ向かう。心は急いていて、シャルルが無事であるかばかりが気になった。今までにないほどの苛立ちと焦燥、そして怒り。冷静さを表面的には保ちつつも、今は煮えたぎった心を必死で握りしめている。


 もしディロイが手を出そうものなら、魔女としての威厳さえ捨てても構わないと思うほどに。


 倉庫の入り口付近には見張りらしい男がふたり立っている。不安になるペトラたちに「大丈夫だ、信じろ」と笑いかけて諭してから、堂々とすがたをさらす。男たちの瞳がギラつきを秘めながら、彼女をじろじろとなめるように見た。


「……中でディロイ様がお待ちです」


 倉庫の重い扉が、錆びと擦れ合ってけたたましく鳴いた。彼女の瞳に映ったのは、縄で縛られたフレデリクとシャルル。どちらも跪かされていて、数人の部下を連れた嫌味そうな白髪の男が口ひげをいじりながら前に立っている。


「これはこれは……お久しぶりですねえ、ローズ様。相変わらずお美しくて素敵な方だ。まさかこんな形で会うことになるとは思いもしませんでしたがねえ」


「汚らしい口で私の名を呼ぶな。さっさと取引の話を進めろ」

「おお、それは失敬! では決まりきった話ですが」


 目を細め、裏切り者への殺意をあらわにする。


「要求は手紙の通り。私が指定した三名と、このふたりの命を引き換えだ。もちろん、すぐに返却というわけにはいきません。こちらが町を出てから、ご友人方を解放しましょう。絶対に反故には致しませんのでご安心を。魔女との取引は慎重に、です。私でなくとも、皆がそうするでしょうな」


 指をすり合わせ、にやつく。彼の目的は証拠隠滅によって自身の立場を維持することに過ぎない。魔女を裏切って不要な怒りを買うのは避けようとした。既に彼女が胸のなかで怒りに火をくべているとも知らずに。

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