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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと炭鉱の令嬢
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第6話「匿う理由」

 互いに名乗ったところで休憩所へ向かう。汗と土の臭いが混ざった部屋のなかで、ささくれだったぼろっちい椅子を机の傍に並べて、ゲオルクが好きに座るように言った。


 全員が腰を落ち着けたところで「何から話せば」とゲオルクが尋ねる。


「ゾーイは赤子の頃に捨てられたはずだが、どこで見つけて連れてきたんだ?」

「……ミランドラの領主様です。フレデリク・ブリンクマンさん」


 ローズは「ああ、あの小僧か」と合点がいく。


 彼女にとってブリンクマン家は馴染み深い。まだミランドラの領主ではない頃、何代も前のブリンクマン家当主から代々付き合いがあり、その性格をよく知っていた。


「だけど、どうして邸宅で匿わずに炭鉱で働かせるの?」


 シャルルの素朴な疑問は核心を突いている。彼らのちからをもってすれば、隠すことなどたやすいだろう。にも関わらず、そうしないのが不思議で仕方がなかった。だが、それに答えを出したのはゲオルクではなくローズだ。


「ブリンクマン家はヴェルディブルグとジャファル・ハシムの橋渡し役で、〝悪魔の子を養っている〟など体裁的に問題がある。屋敷のなかに隠すのは難しくないだろうが、もし庭にでも出ているときに突然訪ねられて見られでもしたら、余計な揉め事になりかねない。炭鉱夫に金を払うかして、簡単な仕事を与えながら表面上は働かせて住まいも別に与えているほうが確実だ。全員、彼女を気に掛けていた理由はそういうことだろ?」


 ローズの鋭い推測に、ゲオルクは目を丸くしながら何度も頷く。


「その通りです。あの子は何も知らないんですが……フレデリクさんがジャファル・ハシムから帰ってきたとき、寝ていた俺たちを起こしてまで頼みに来て『あの子が生きていると困る人間がいるはずだ』と。それで匿っているんです」


 ローズの目が、ちらと隣に座っているペトラを見た。彼女の安心を宿した瞳の意味をなんとなく察して、フッ、と小さな笑い声がもれたのを咄嗟に誤魔化そうとした。


「待遇も良くないのに、よくフレデリクに従う気になったな?」

「ええ。報酬も高く弾んでくれましたし、なにより子供に罪はないですから」


 今まで貧しい生活だったのが、少しだけマシになるのなら引き受けても構わない。そうして与えられた仕事は、時間が経てば経つほど彼らに愛着を湧かせた。いつしかゾーイは彼らにとって家族同然の存在となり、フレデリクと手を組むのがいちばん彼女を守れるとして、炭鉱の仕事を手放したりはしなかった。


「赤ん坊のうちは大変でした。毎日、ブリンクマン家から派遣されてくる従者の方々が入れ替わりで世話をしてくれてましてね。それでも、よく泣くもんで……ハハ、眠れない日もありましたが、おかげさまですくすく育ってくれましたよ」


 こんな場所でも子供は元気に育つものだ、と感心してローズがしきりに頷く。炭鉱の休憩所は広い大部屋になっていて二段ベッドがいくつも並んでいるので休むには最適だとしても、衛生管理が行き届いているとはお世辞にも言えない。


 ブリンクマン家の従者たちも心労があって、手を尽くしただろうとは想像がついた。


「それで、魔女様。俺たちは不安でたまりません……バレたんですか?」


 嘘であってくれと祈る彼の視線に、ローズは肩を竦めて言った。


「ああ。隠す理由もないし言っておくが、おそらくはジャファル・ハシムの大貴族、カスパール家に目を付けられたとみていい。そのために私が来た。手を貸してくれるか」


 今回ばかりは世間知らずのお姫様を預かるのとは違い、明確に命を狙われているうえに相手は手段を選ばない可能性がある。ゾーイのためにと動ける人員がいるのなら、最大限まで確保するに越したことはない。


 当然、ゲオルクもふたつ返事だ。


「任せてください。俺たちにできることなら、なんだってやります!」

「頼もしいな。ではそろそろゾーイを連れて来てくれ。少し話がしてみたい」

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