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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズとプリンセス

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第43話「やるべきことを」

 事態に気付いたのは城の前にやってきてからだ。自分は魔法で幻を見せられていたのだと理解したとき、いったいいつからだったのかを遡った。


(……そうか。あのときだ、あのときに魔法を掛けられたんだ)


 ローズが悟られず魔法を掛けるタイミングはひとつしかない。帰りの列車のなかで泣きじゃくるシャルルにハンカチを渡し、帽子を脱がせて頭を撫でたとき。秘かに彼女は魔法を使って自分の幻が見えるようにしておいた。


 馬車に乗る頃には本人ではなく幻の方を認識して別れたのだろう、とシャルルは自身に向けた憐れみの笑いが漏れた。それもそうかと涙をこらえながら。


「そう、だよね。ローズは魔女で、私は……ただの……ううん、しっかりしなくちゃ。考えるのはあとでいい。私がやるべきことはまだ終わってない」


 本当は今すぐにでも引き返したい気持ちだ。別れの言葉も感謝の言葉も伝えられないままなのは胸が張り裂けそうなほどに辛い。それでも、ここで立ち止まればローズは喜ばないだろう。


 彼女ならば何と言うかを考えて、シャルルは深呼吸をする。


 馬車が正門を抜け厩舎のある裏庭に回り込む。人目のない場所でマリアンヌの警護を担っていた兵士が手を振って合図を出せば、馬車はそこで停まった。


「おかえりなさいませ、シャルロット様。どうぞこちらへ」

「ありがとう。暗い場所で待つのは寒かったでしょう」

「はは。これくらい、なんのその。マリアンヌ様がお待ちですよ」


 御者の男に別れの挨拶をしてシャルルは兵士の案内で城のなかに入る。見た目には町の少年風だったが、夜であるのに加えて多少の人払いも済ませてあるおかげで、誰の目に留まったりすることもなく移動はスムーズに進んだ。


「女王陛下、シャルロット様をお連れ致しました!」


 兵士の声が響く。玉座に腰かけているマリアンヌが深く頷いた。


「ご苦労様、もう下がっていいわ」


 一礼をして兵士が去ると部屋にはマリアンヌとシャルルだけになった。しん、と静まり返るなか、マリアンヌは穏やかそうに微笑んだ。


「おかえりなさい、シャルロット。三ヶ月という話だったけど、ずいぶん早かったわね。でも少しはマシになって帰ってきたみたいで安心したわ」


「ありがとうございます。……あの、それよりもエミリはどこに?」


 代役のすがたが見えないことを尋ねられ、マリアンヌは「今着替えているところよ。そろそろのはずだから」と答えた。その言葉通りに部屋の扉がまた開かれて、普段のメイドすがたをしたエミリがやってきた。


「すみません、お待たせ致しました。……あ、あの……えっと」


 エミリは何をどう言っていいか分からない。自らの行いが失敗に終わり、あまつさえ誰の仕業だったのかまでバレているのを伝えられていて、シャルルが突然戻ってきたことにすべてが白日の下に晒されてしまうのをひどく恐れていた。


「お母様。私は少しエミリとふたりで話したいことがあります」

「私がいては出来ない話かしら?」


 マリアンヌに向けて彼女は頷く。これだけは譲れないわがままだ、と。


「彼女だからこそ話せることもあるのです、お母様」

「ま、そうね。あなたの友人だもの、構わないわ。少しだけね」


 そう言って彼女は護衛の兵士を連れて部屋をあとにした。シャルルは扉に聞き耳を立てて、傍に誰もいないことを確かめてからエミリに振り返る。


「今日まで大変だったね、エミリ。私の代役をありがとう」

「なにも言わないのですか。私は……その……」


 殺そうとした。それは事実だ。シャルルは怒り心頭のはずだと思っていたエミリは、想像とは逆の言葉を掛けられて、顔を青ざめさせながらも不思議そうにする。


「許すよ、たったいちどの気の迷いだった。そうでしょ?」


 俯いたままエミリが小さく頷く。憧れていた生活。まるで本当の王族のように扱われ、誰からも注がれる羨望の眼差しは心地よく二度と得られない経験だった。


 あまりにも煌めいていた。手放したくない。元の生活に戻れば、触れることさえ叶わないから。


「私はね、エミリ。君のことを今でも大切な友人だと思ってる。……たしかに君のしたことは間違っていたけれど、それまで私に尽くしてくれていた君も本当のすがたのはずだ。……ごめん。君の気持ちに気付きもせずに、いつだって私はつまらないわがままばかりを聞かせていたね。不甲斐ない私を許してほしい」


 深く頭を下げるシャルルに、本来頭を下げるべきなのは彼女ではないのに、なぜ自分が謝罪を受けているのかとエミリは動揺する。


「お、お顔をあげてください、シャルロット様。悪いのは私です。みずからの欲のために、このような……本当に愚かでした。罰を受ける覚悟はあります」


 なぜこれほどまで優しい方を裏切ってしまったのだろう、と胸のうちに強い後悔がこみ上げてきたエミリは、涙を浮かべて謝罪を口にした。


 シャルルはちょっぴりローズにも似た悪い笑みを浮かべて顔をあげる。


「わかった。それでは罰として、もう少しだけボク(・・)の代役をお願いね」

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