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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズとプリンセス
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第33話「ちょっとした昔話」

──ひと晩が過ぎ去り、雨はあがったが曇り空は変わらずだった。


 シャルルが目を覚ましたのは日が昇りきる少し前。湿気の絡んだ毛布の違和感に身を起こして目をこすり、ふと隣のベッドを見るとローズのすがたがない。


 一階では朝食の支度が進み、彼女が準備をしていたようだ。


「おはよう。よく眠れたかな、シャルル」

「うん、とても。ミリアムさんはどこに?」

「馬の世話をしてくれている。そろそろ戻ってくるはずだ」


 彼女の言う通り、タイミングよく玄関の扉を開けてたっぷり汗を流したミリアムが日照りにも勝るような明るさをして入ってくる。


「いやあ、終わった終わった! あ、おはようシャルルちゃん!」

「おはようございます。すみません、気付かなくて」

「いいのいいの~、これはアタシがするって言ったからさ」


 先に水だけを浴びると言って風呂場へ向かったミリアムが出て来るまで、食事が冷めないようにローズがぱちんと指を鳴らして、魔法を掛ける。


「シャルル、飲み物を運ぶのを手伝ってくれるか」

「あ、うん! ローズも結構前に起きたの?」

「いや、そうでもない。一時間くらい前だよ」


 ずらりとテーブルに並んだ食事は肉や野菜のバランスがよく出来ている。食材のどれもが森でとれたものばかりで、野菜と目玉焼きに使った卵は、家の裏にある畑と飼っているニワトリから持ってきた。


 ミリアムの自慢のひとつだと彼女は言った。


「そういえばミリアムさんはエルフだって聞いたよ」

「面白い話だろう? おとぎ話の住人だと思っていたよ、私も」


 知り合ったのは五十年前。しかしミリアムが森で暮らしている時間そのものは、さらに長い。ローズが生まれるよりも前から今の森で変わらない暮らしをしている。


 ひとつ変わったのは小屋の規模だ。ローズは自身が訪ねるまで物置かと思うような狭さだったと振り返って可笑しがった。


「最初はせいぜい寝る場所を確保するので精一杯だったんだよ。水を浴びるのは川で済ませていたし、ニワトリに建てた小屋のほうがよほど立派だったのをよく覚えてる。あのときは清潔感の欠片もなくて、鼻をつまんだものだ」


 エルフといえば清らかな自然の象徴とも言うべき存在だが実物はそうでもないらしく、ミリアムいわく『人間が勝手につけた想像。個人差くらいあるよ』との話だった。それにしても当時はあまりに不衛生で浮浪者さながらだった、とローズは嫌な顔をする。


「今も名残みたいに部屋は散らかってるが、及第点とは言えるかもな」

「そうなんだね。じゃあ、このログハウスが建ったのもそんなに前じゃない?」

これ(・・)は三十年くらいかな。前に建てたヤツはミリアムが火事を起こしてね」


 部屋が散らかっているにも関わらず、寒いからという理由で暖炉に火をくべたことが原因で、ちかくのものに引火させてしまった過去があるミリアム。


 その経験から暖炉のまわりだけはいつも片付いている。


「あやうく森まで燃え広がるところだった。困ったヤツだよ」

「……ふ、ふーん。そうなんだね」


 ふとシャルルは彼女の話していた〝森で起きた大火災〟を思い出す。まさかミリアムが本人の与り知らぬうちに火事を起こした可能性もあるのでは、と。


「まーた言ってる! そのことは悪かったってば~」


 風呂場から戻ってきたミリアムが適当な服を着て椅子に腰かける。ぷうっと頬を膨らませて不満そうにしたが、ローズは冗談ではないといった様子だ。


「あやうく私は、お前のせいで焼け死ぬところだったってのに。それから何度か似たようなボヤ騒ぎを起こしておいて〝悪かった〟なんて信用できるわけがない」


「ヴッ……それは否定できないかもだ……!」


 フッとローズが鼻で笑う。あれこれ言いながらも、ふたりは仲が良かった。


「さ、下らん話はおしまいにして食事をしよう。魔法も無限じゃないから、冷めてしまわないうちにな……安心しろ、前よりも料理は上手くなったはずだ」

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