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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズとプリンセス
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第30話「変なお姉さん」

 不思議な感覚。ローズにはまだ、その感情の正体が分からなかった。


 陽も落ち始めた頃、焚き火に木の枝をくべて、ぱちぱちと爆ぜる音を聞きながらのんびり時間を潰していると、草葉や枯れ枝を踏み鳴らして誰かがやってくる。


「誰さ、アタシの森で焚き火やってるのは──って、ローズ?」


 腰まで伸びた美しい金髪。透き通るような白い肌をした女性が驚きと嬉しさの混ざったような顔をみせる。ローズは柔らかな表情で返した。


「ミリアム。退屈だったんでキャンプの真似事をしていたんだよ」

「なーんだ、ローズなら別にいいのさ。久しぶりだねえ」

「ああ。今日はどこに行っていたんだ? 森にいると思ったのに」

「買い出しだよ。ちょっとウェイリッジまでね……って、あら」



 ミリアムの視線がシャルルを向いた。


「たしか君ってばウェイリッジで会ったよねえ?」

「コーヒーをくれた変なお姉さん!」


 なるほど、とローズは理解した。ミリアムは気に入った相手に、あいさつ代わりの贈り物をする傾向がある。ウェイリッジで偶然に出会って仲良くなったのだろう。


「顔合わせが済んでいるなら都合がいい。ミリアム、実はしばらく泊めてもらおうと思っているんだが構わないだろうか? もちろん礼は用意してある」


「いいよいいよ、礼なんて。とりあえずうちにおいで!」


 暗くなってからの移動は危険で、馬車をひきながら森のなかを進む。やってきたのはミリアムの丸太を組み上げた二階建ての小屋だ。ひとりで住むにはやや広い程度の快適具合で、三人だと少し手狭にも見える。


「散らかってるけど許してね! 適当に座って、何が飲みたい?」

「コーヒーで頼む。シャルルはどうする、何でも言うといい」

「えーと……じゃあ紅茶でもいいですか?」


 控えめなシャルルにミリアムはグッと親指を立てた。


「もちろん。アタシも紅茶好きだしねえ。あ、ローズ、暖炉に火をお願いできるかなあ、今日は冷えるかもってクロヴィスさんが言ってたから」


「ああ、わかった。たしかに今日は少し冷えてきた気もするな」


 薪を放りこみ、近くにあった紙に文字を書き、指で触れると火がつく。それを薪の上におけば、ぼわっと一気に燃え上がった。そのあいだにミリアムが「おまちどう、体が温まるよ」と木製のプレートにのせた温かい飲み物を運んでくる。


 ローズたちと向かい合って穴の開いたぼろっちいソファに腰かけ、ぎい、と音がなった。クッションも悪く、捨ててあったのを拾ってきたかのような年季の入り具合だ。


「さて、せっかく来てくれた新しい子に改めて挨拶しておかないとね。私はクレヴァリー・ミリアム、この森に住んでるのさ。君の名前を聞いてもいいかな?」


「えっと……ボクはシャルル・ヴィンヤードです。よろしくお願いします」


 ミリアムが目を丸くしてローズをちらと見た。彼女はコーヒーに口をつけながら、フッと小さく笑っているだけで特に何を言おうともしない。


「……あれ、おっかしーな。絶対に女の子(・・・)だよね、君?」

「あ、え、ええと……! ローズ、あの……!」


 あたふたして困っているシャルルがローズに助けを求める。


「いろいろ複雑でな。素性は隠しているんだ」

「じゃ、アタシの鼻がへそを曲げてたわけじゃないんだね?」

「そういうことだ。それで、しばらく泊めてもらいたいんだが」

「全然いいともさ! どれくらいを予定してるか教えてよ」


 尋ねられるもローズはしばらく黙り込む。カップのコーヒーに仄かに映っている自分を見つめながら「……さあ、どれくらいかな」とまた深く考え始めてしまう。


「えーっ、もしかしてなんにも考えずに来たの!?」

「そうだな、予定はない。とはいえ長くても二週間ほどのつもりだ」


 しばらくの滞在で、町のなかとは違う生活をシャルルに体験してもらおうという考えであることを伝える。ミリアムも納得がいったらしくウンウンと頷いて。


「それなら、またウェイリッジへ買い出しに行かなくちゃね」

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