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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズとプリンセス

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第23話「次に向かう場所」

 食事の準備が整い、全員が席についたらグラスに水を注ぐ。「じゃあ、いただきましょ!」とマリーの言葉に皆が食器を手に取った。シャルルだけがまだ少し慣れていないようにそわそわしているのを見て、ローズは「大丈夫」と腕に触れた。


「へへ、ありがと。ちょっと緊張しちゃった」

「そういうものさ、気にしなくていい」


 普段とは違う雰囲気の慣れなさもローズのひと言で気持ちが楽になり、それからはクロヴィスやマリーとも話が進むようになった。気付けば時間も忘れるくらいで、食事が終わっても水の入ったグラス片手に談笑は続く。


「そういえば、ローズさんは次はどちらへ向かわれる予定なんです?」

「クレヴァリー・ミリアムを訪ねるつもりだ」

「ああ、森に行くんですね。しかし最近、狼が出るとか」


 馬車で行くには危険が伴う。ローズひとりならば問題はないのかもしれないが、そこには狼にとっての()もいるのだ。だが、クロヴィスの不安を彼女は蹴った。


「心配する相手を間違えてる。狼に臆病になるのはうさぎや鹿だけでいい」

「そりゃあ、ローズさんは平気でしょうけど……」


 彼の視線がちらとシャルルに向く。馬車のことは口に出来ないぶん彼女を心配している。見目には少年だが、あまりにか弱く頼りないふうに見えるのだ。そんな気も知らず「ボクは全然平気ですよ」と気楽に返していた。


「不安になる気持ちも分かるが、なにがあっても怪我のひとつさせたりしないさ。それとも私が獣を前にしたら新米の猟師よりも役に立たないとでも?」


「ハハ。それはたしかに言われてみればそうですね」


 魔女が言うのだから間違いない。誰でもそう思うだろう。たとえば有能な騎士団を集めたとしても、触れることさえ叶わないのではないか。ローズにはそれほどの可能性がある。否、彼女は実際に「できなくもない」と答えるはずだ。


 たかだか野生の獣など恐れるどころか、逆になんらかの手段で殺すとしても不自然ではない。


「ねえねえ、ローズ。そのクレヴァリー・ミリアムっていうのは?」

「私の古い友人だ。ウェイリッジ近くの森で暮らしてる」


 知り合ったのは、およそ五十年ほど前。森にたったひとりで暮らしていて気が合うので、何年かにいちどは必ず訪れるようにしているのだと言う。


「小さな森だが流れている川も澄んでいて美しいし魚も泳いでいる。木の実もたくさんあるから、ひとりくらいなら暮らしていくにはそれほど不自由もない。まあ、季節によっては困ったこともそれなりにあるみたいだが……もしお前が気に入るような生活だったら、しばらくは滞在してもいいと思っている」


 たまに狼のような危険な動物はいるとしても、ローズは魅力的な生活として語った。自給自足で毎日忙しくはあるが、だからこそ楽しめることも多い、と。


「そっか……ふふ、それ、すごく楽しみだなあ。母様が所有してる森には別荘があるから行ったことあるけど避暑地とかに使う程度だったし、食べ物だって持ち込んだから、自分で何もかもっていうのは興味があるなあ」


 目を丸くして聞いていたクロヴィスに、ローズが「おい、こっちをみろ」と呼びかけてから彼の顔の前でぱちんと指を鳴らした。わずかな時間のあいだ──今の会話が始まるくらいまでの──を記憶から消して少しだけ意識を飛ばす。


「……おい、シャルル。私の言いたいことが分かるだろう?」


 呆れた目つきがシャルルを捕まえる。


「ご、ごめん。ついうっかり口が滑っちゃった」


 俯いて申し訳なさそうにするシャルル。ローズはテーブルに肘をつきながら。


「クロヴィスなら悪さなんぞ考えたりもしないだろうが、普段からそんな〝うっかり〟があっては困る。もう少し徹底するように努力してもらわなくてはな」


「そ、そうだね。ボクはシャルル・ヴィンヤード……って、あれ?」


 注意を受けて意識を高めなくてはと言い聞かせようとしながら、不意に彼女はマリーがニコニコと見ているのに気付いて不思議そうにした。


「ねえ、ローズ。マリーには魔法を掛けなくていいの?」

「ん? ああ、最初から気付かれてるから別に良いだろう」


 驚くシャルルをよそにマリーは彼女へ向けてきらりと光るようなウィンクをして「大丈夫よ、絶対誰にも言ったりしないから!」自信たっぷりに言った。

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