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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと悪魔の思い出

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第40話「主従の絆」

 過去を語り、シトリンは自分の想いを胸に秘めたままにした。シャルルにもローズにも話していない自分だけの大切にしている想いを。


 たとえ叶わないとしても彼女はもう十分に幸せだったから。


「……長かった八年も、今やすっかり思い出か」


 ぶどう酒を飲みながらほろ酔い気分にローズが言う。


「私は正直、ずっと独りだと思っていた。お前たちにこうして出会えて本当に良かったよ。……百年も二百年先も、このままでいられたらいいんだがね」


 シャルルとの出会いだけでなくシトリンもまたローズの人生を動かす大きな存在だった。永劫に続くはずの孤独。そんな水底でじっとして漠然と過ごしてきた彼女が伸ばされた手を掴んだときから。


「ボクも。二人に会えて本当に良かった」

「……もちろん、私もですよ。ええ、本当に」


 ローズとシャルルの間にある強い絆には敵わないとしても、二人と共に過ごす幸せを感じられる程度には繋がっている。そう信じて、シトリンもぶどう酒に口をつけて小さく微笑む。これがずっと続けばいいな、と。


 外は少しずつ静かになりつつあった。嵐は叫び声をあげるのをやめて、翌朝には帰れそうな具合の天候だ。ホッとした人たちは多いだろう。レストランの中には活気が取り戻されていく。「早く帰りたいね」と話しているのを耳にして「せっかくだから、私たちは港町でもう一泊していくか?」ローズは二人に尋ねる。


「いいね、楽しそう! シトリンはどう?」

「私も賛成です。散策も悪くないかもしれませんよ」

「決まりだな。港町に戻ったら宿を探そう」


 今回ばかりはケトゥス自体に寄った事がないので、普段訪れる町のように見知った顔もなければ懇意にしている宿もない。朝の早い内に泊まれそうな場所を探さなければいけなかった。それを聞いてシャルルがぽんと手を叩く。


「あ! ねえ、それならボクが紹介できるかも!」

「む……? なんだ、ケトゥスに知り合いでもいるのか?」

「うん。仲が良いってわけじゃないけど、何回か会った事あるよ」


 港町ケトゥスにはクルセスカ男爵という男が暮らしている。大の釣り好きで、ヴェルディブルグの王城に来ては釣り仲間を増やそうとして、何度かシャルルにも『若いのですから趣味の幅を広げる意味でも!』と声を掛けたことがあった。


「あの人、釣りをするためだけに自分の邸宅にいるよりも海近くの宿を貸し切ってることが多いらしいから。よく釣れてて、新鮮な魚を捌くのが上手なんだって」


 横で聞いていたシトリンが食いついた。


「それは興味が湧いてきますね。おっと、よだれが」

「お前、本当に食い意地の張ったヤツだな」

「それはもちろん。私の生き甲斐のひとつですから」


 シャルルがくすくす可笑しそうにする。


「あ、っと……ボクちょっと席を外すね」


 もじもじとして少し慌てるように離れていくのをローズはなんとなく察して「ゆっくり待ってるよ」と、カットされたステーキをひとつ口に運んだ。


「飲み過ぎましたかね? もう三杯目みたいでしたから」

「顔も紅かったからあまり強くないんだろ。……ああ、それより」


 ごくんと飲み込んでから、またぶどう酒に口をつける。


「懐かしい話だったが自分の事は言わなくてよかったのか? 隠しているつもりなんだろうがアイツの記憶を戻したのはお前なんだろう、シトリン」


「うわっ、バレてたんですか? 上手く隠せてると思ったのに!」


 驚いてむせそうになるシトリンをローズは横目に見て笑う。


「気付いたのは後からだよ。アイツから魔力の名残りを感じたんだ、微かだったが。私以外に魔法を扱えるヤツがいるとしたら、お前しかいない」


 何をどうしたのかまで具体的には知らなくても簡単に予想はつく。ローズやシャルルとの繋がりがあって、魔法が使える存在は世界のどこを探してもシトリンしかいないのだから。ローズに言われて彼女もいまさら気付いた。


「ムムム……バレてたと思うと恥ずかしいものですね」

「いいじゃないか、別にバレてたって」


 グラスをテーブルに置いて給仕を呼びステーキの追加注文をする。


「おかげでこうして食事も楽しめる。お前もシャルルもいるからな。……感謝してるよ、シトリン。お前さえ良ければ、これからもよろしく頼む」


「当然です。だってあなたは契約者で──私は悪魔なのですから」

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