表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと悪魔の思い出

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

219/234

第28話「最後の時間を」

 シトリンが強い忠誠を誓ったのは、この頃だ。


 自分の事を真に見つめて〝誇りに思う〟など言われては落ちない方がおかしい、と彼女にそう感じさせるだけの優しさに満ち溢れていた。


「おい、どうした。なんで泣いてるんだ」

「……な、泣いてませんよ。さあ寝ましょう、明日も早いですから」


 背中を向けて毛布に包まる。今まで誰に言われても震える事のなかった言葉。相手を気遣う気持ちからではなく真剣だったローズに感謝した。


 いつもひとりぼっちだった悪魔の、本当の友人ができたから。


「ローズ様。これからもずっと友達でいられますか?」

「お前がそう思うなら、ずっとそうだろうな」


 にやにやするのが止められなかった。偉い悪魔だから、誰もが言った。『私こそが良き理解者となりましょう』くだらない見栄と地位に取り憑かれた、悪魔の意地の悪さ。人々の『きれいだよ、愛してる』も彼女の心を見ていなかった。


「……ありがとうございます」

「どういたしまして。そろそろ本当に寝ないと」

「ふふっ、そうですね。寝ましょう!」


 などと言いながら眠れるはずもなく、結局浮かれた気持ちのまま朝を迎える事になる。ロドニーに引き返すため馬車に荷物を積み、早朝には村を出て森を抜けた。悪天候は忘れ去られたかのように土は乾き、平坦な道を帰っていく。


 御者台にはシトリンが座り、まぶたの落ちそうな疲れた表情をする。


「お前寝てないのか? 代わってもいいが」


 荷台で丸めた毛布をクッション替わりにしていたローズは、今にも倒れてしまいそうな顔色の良くない彼女を心配そうに覗きこむ。


「すみません。体調管理はバッチリだったはずなんですけど」

「悪魔でも体調は崩すんだな。無縁かと思っていた」

「肉体がある以上、どんな生き物だって体調くらい悪くなりますよ」

「……そうか。いったん馬車を停めろ、代わるから」


 あまり無理をしては逆に迷惑が掛かる、と本当ならロドニーまでは自分が馬車を操っていくつもりだったが、シトリンは諦めて馬車を停めて荷台にいるローズと代わった。「毛布を重ねて敷いたら、少しは休めるだろ」と気遣われて期待に応えたかったのにと申し訳なさそうにがっくりする。


「あら? ローズ様、あの小屋の前に馬車が」


 二人で雨宿りした小屋の前には見慣れない豪華な馬車が停まっている。ローズは驚いて馬車の手綱を握りしめた。


「あれはセイヴァンの馬車だ。あいつ、まさかここに?」

「行ってみましょう。ほかの誰かの可能性もありますから」


 馬車を降りて小屋をのぞき込むと、コーヒーの香りがした。中には一人の老人がいて、チェス盤の前でゆったりと過ごしている。


「……誰かと思えば魔女殿ではございませんか」


 しわがれ声がふたりを見つけて喜んだ。


「久しぶりだ、セイヴァン。前はもっと元気そうだったのに」

「今は骨と皮ばかりが残りましたよ。ここへはどうして?」


 まるで枯れ木のようなガリガリの老人セイヴァン・ルーファウスは、おぼつかない手でチェスの駒を並べ始める。


「ロドニーへ用事があってな。それほど急いではないが」

「でしたらコーヒーでも淹れましょう」

「ああ、気遣わなくていい。それほど長くもいられない」

「そうですか。そちらの可愛らしいお嬢さんは……」

「シトリンです。ローズ様の侍女をさせて頂いております」


 彼女が頭を下げると、老人もまた深く頭を下げた。


「シトリンか、良い名前をお持ちだ。私はセイヴァン、よろしく」


 ごほごほ咳きこんで、セイヴァンはわずかに血を吐く。


「……あまり調子が良くないようだな」

「ええ、かなり。手も足も震えてばかりで」


 酷く体調が悪く、一人で歩くのもつらいはずだ。にも関わらず彼は自分で馬車を走らせ、遠く自分の馴染みある小屋までやってきた。シトリンはふと彼を見て気付き、ローズに耳打ちする。


「もう時間がないようです。どうされますか?」


 自分の死に場所として、ローズの友人は思い出の詰まった森の小さな小屋で生涯を閉じようというのだ。チェスをしながら、ゆっくりと。


「……シトリン、ロドニーの件をお前に任せてもいいかな」

「ええ、もちろん。いっしょにいてあげてください」


 シトリンが出て行った後、ローズは椅子に座ってチェス盤に向かう。


「時間ができた、せっかくだから一局どうだ?」

「おお、それはいいですね。ぜひやりましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] にやけるのが止められなかった。 にやける。漢字で表記すると「若気る」。 この言葉は本来、男性が女性のように化粧をしたり、色っぽい様子をしたり、なよなよとするさまを表すもの。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ