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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと悪魔の思い出

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第18話「メギストスの封」

 いきなりな話をされてローズも困惑する。


「まぐわう……愛し合うことに問題があると?」


 悪魔は姦淫に通ずるものだとしていた彼女は不思議に思う。


「いえ。厳密には〝愛してしまった〟というのが問題でして、行為そのものが問題ではないのです。ただ、どうしてあなたの魔導書が『メギストスの封』と題されたのか、ずっと悩んでおりました。私たちが作った私たちのための魔術ですから」


 シトリンがずっと考えていた全てを打ち明ける。人間が魔力を持つはずがない。魔法を知れるはずがない。おとぎ話として語り継がれるだけに留まっていたはずのものが人間に渡った。誰かがそれを渡してしまったのだ、と。


「私の推測……いえ、ほぼ確信ですが『メギストスの封』は本来、私とペリドットという悪魔のふたりで創り上げたもの。潰えぬ魂を創造し、永遠に生きるための。しかし私たちの肉体には不完全に適応しました。要は使い物にならなかったんです」


 不老不死を目指したのはなにも錬金術師のような神秘に手を伸ばす者たちだけでなく、『生命』という束縛から解き放たれて永遠を楽しく生きようとした悪魔たちも同じであった。シトリンとペリドットは、中でも優れた存在として魔法の創造に尽力した。


 そうして生み出された『メギストスの封』は魂そのものを喰らって消費してしまう悪魔の性質には合わず、解呪の手段もややこしいものですぐに没となった。それからいまだに、あらたな研究は進んでいないと彼女は言う。


「そんな魔法の名が私の魔導書の表紙にある、と」


 シトリンは深くうなずき、水を飲んで口を潤す。


「私の友人であったペリドットは、おそらくどこかであなたの祖先であるシャムロック・フロールマンに出会ったのでしょう。そして恋に落ちた。きっと魔力を授け、魔法を教えるにはじゅうぶんな理由だったんでしょうね……」


 悪魔ペリドットは、どこかで出会ったシャムロック・フロールマンに恋をしてしまった。きっと共に過ごした時間も短くはないだろう。


 だが人間と悪魔では生きる時間に大きな差が出てしまう。別れを惜しんだペリドットはシャムロックに魔力を授け、魔法を教える事で生き永らえさせようとした。


「──けれど、幸せはそう長く続かなかった。私はそう思うのです」

「なぜ? 魔力を得たのなら時間はたっぷりあっただろう」

「ええ。たっぷりあったはずです。ともに幸せな時間だったと。でも、」


 注文した料理が運ばれてくる。ウェイターがいなくなるまでを少し待ってから、シトリンは料理を口に運びつつ話を再開した。


「シャムロックは人間です。こう思ったのではないでしょうか。〝彼の子供が欲しい〟なんて、ペリドットが喜ばないわけがありませんから」


「だが愛してしまった以上、悪魔がまぐわうのは許されない?」


 望むと望まざるとに関わらず、いちど肌を重ねてしまえば悪魔に待つのは死のみ。もしペリドットがその事を伝えていなかったとしたら。いや、伝えてはいなかったのだ。だからこそ永劫続く魔女の家系が生まれた。


「シャムロック・フロールマンはきっと驚いたでしょうね、魔導書だけを残して彼が消えてしまったから。きっと深い悲しみを背負ったはずです。彼女はのちに子供が産まれ、そして『メギストスの封』は継承されていく。ペリドットが存在した証明になる最後の痕跡だから、途絶えさせたくはなかったのでしょう」


 それをふまえたうえでシトリンは、原初の魔女であるシャムロックを天才だと称えた。体内に流れる魔力を丁寧に扱い、あまつさえ魔導書に記された悪魔の教えた魔法を読み解いて法則性を見出し、いささかの不完全さはあるものの改良までしてみせたのだから。


 のちの魔女たちも同様の血筋、その賢さには唸らされた。


「きっといつかペリドットが残したものが継承されていくうちに、誰かが『メギストスの封』を完成させることを彼女は望んだのかもしれません。また同じような苦しみを背負わなくてもいいように。……まだ出来ていないようですけどね」


「だったら私が完成させてみせるさ、シトリン」


 手に持ったフォークをそっと置いて、自信たっぷりに返す。


「これまでの魔女にとってはどうだったか知らんが、少なくとも私が思うに不老不死は永遠の研鑽、その機会を与えるものだ。誰もが成せなかったのなら、何百年、何千年かけても私が極致へ辿り着いてみせよう。──このローズ・フロールマンが約束する」

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