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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと悪魔の思い出

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第5話「的中する予感」


────翌日、コテージにやってきた三人は暗い顏をした。見上げた空は雨雲を運び、瞬く間にじっとりと湿った空気を森全体に漂わせている。今朝は晴れていたのに、準備を始めた途端に天気が変わってしまったのだ。


「雨、降ってきちゃったねえ……」


 大降りというほどではないものの、とてもバーベキューなどできるはずがない。最も落ち込んでいるのはシトリンだ。やはり表情に大きな変化はないが、外の景色を見つめる瞳はしょんぼりしている。


「すみません、昨日の違和感はこれだったのかも……」


 シトリンががっくりと肩を落とす。


「で、どうするんだ。調理自体は中でも出来るが」

「だめです。ローズ様、こういうのは外でするからいいんです」

「……そうか、すまない。だがこれではな」


 しばらく天気が回復する事はない。バーベキューの準備は取りやめて、コテージで休んで少し待ってから帰ろうと話す。


「残念ですね。せっかく楽しみにしていたのですが」

「この天気では仕方ない。明日はすっきり晴れるさ」


 ケトゥスへ戻るまで、もう一日はたっぷり時間がある。そんな期待を込めたひと言にシトリンもやんわりと笑顔をみせた。────しかし残念ながら、彼女たちの思いを蹴散らすかのように天気は悪化していく。


 コテージで雨が弱まるのを待ってから帰り、その日はこれといって特別な事もなく部屋から外を眺めて「いっそもう一日くらい長く泊まるか?」などと話し合うだけで終わってしまい、ひとまず眠りについた翌朝。延長するしないに関わらず天気は大荒れになっていて、海が高い波を起こす有様には誰も言葉が出てこない。


「ロジーに聞いてきたんだけど、しばらくは帰れそうにないって。近くても船が来れるような天気じゃないから、他のお客さんたちも困った感じでロビーに集まってたよ。ボクたちは部屋にいた方がよさそうだね……」


 宿泊客はそれなりの地位にある人間ばかりだ。もしそんな場所に魔女が現れれば彼らが何を言い出すか? 我先に帰らせてもらおうとするか、あるいは天気をどうにかしてくれと騒ぐに決まっている。ローズが不機嫌になるのは明白だった。


「お前が言うならこのまま部屋にいようか」


 他に遊べるところもないし、と彼女も残念そうだ。


「どうせ出られないのでしたら、せっかくですからボードゲームなんていかがですか? チェス盤くらいでしたら用意させていただきますよ」


「ふむ、それもありだな。しかし誰と誰が勝負を?」


 シトリンは「それはもちろん」と自分を指さした後、シャルルを見て。


「まずは私と彼女の二人でやります。ローズ様はどちらの味方をしてくれてもいいですよ。まあ私が負けるなんてありえない話なんですけど」


 負ける可能性はゼロだとでも言いたげで、それならとローズは彼女がテーブルに盤面と駒を用意する間にシャルルを椅子に座らせて「できるか?」と聞く。


「もし難しいと思ったらいつでも頼ってくれ」

「うん、ありがとう。ふふ、頑張るぞ~っ!」


 気合ばっちり。シトリンも表情が明るくなっていた。


「では始めましょう。手加減はいたしませんので」

「当然だよ、よろしく。ボクも負けないからね」


 そうして対戦が始まった。どちらも慣れた手つきで進み、ローズも安心して見ていると、シトリンはふと小さく笑い声をあげた。


「……なんだか昔を思い出しますねえ。ローズ様に拾っていただいたときも、こうして雨の日にチェスをやりましたね。あのときは私が負けましたっけ」


 ボードゲームの中でもチェスの得意なシトリンは、まだ出会って間もない頃に勝負を挑んだことがある。結果はローズの勝利に終わったのを嬉しそうに語った。


「そういえば、前のときはさ。列車の中で話そうとしてシトリンが寝ちゃったんだよね。せっかくだから聞かせてよ、二人の会った頃の話!」


 興味津々なシャルルの動かした駒を取り、自分の駒を進めながら彼女はニコニコと心からこんな機会を待っていたとばかりに。


「ええ、構いませんよ。──あれは今から七十年ほど前の話です」

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