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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと悪魔の思い出

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第3話「水着に着替えたら」

 食事を終えたら釣り竿を借りに受付へ戻る。シャルルが「ロジー、例のものをお願い」と声を掛けると彼女は待っていましたと三人分の釣り竿に加えて「これで全部でよろしいですか?」と大きな布の包みを持ってきた。


「ばっちりだよ、ありがとう。それじゃあチップは置いてくね」


 数枚の銅貨を受け取り、ロジーは微笑んで手を振った。


「いってらっしゃいませ、シャルロットお嬢様」


 そうして彼女たちは島をのんびり歩きながら、裏手の岩場にやってくる。波はあるが穏やかで、落ち着いた風の吹く場所だ。人目に付きにくい隠れた小さい砂浜もあって、プライベートを誰かに覗かれる心配のない穴場だ。


「シャルル。ずっと気になっていたんだが、その包みはなんだ?」

「あ。これね、うん。実はあ~……じゃじゃ~ん!」


 包みを広げてみれば何種類もの色とりどりな水着がある。ローズはひたすらに嫌な予感がしたが、いまさらどう逃げ出す事もできない。


「まさかここで着替えろとでも言いだすんじゃないだろうな」

「フフ、その通り。あっちの岩陰で着替えようよ」

「ああ、なるほど。だからこっちに来てから食事を……」


 シャルルが頑なにケトゥスではなくカナロ島に着いてから昼食にしようと言うので、ささやかな疑念は胸の中に芽生えていたものの、理由があるのならわざわざ断るのも可哀想だと黙っていた結果がこれだ。ローズは頭を抱えたくなった。


「……言っておくが私はこうで泳げない。水着なんて着る理由が──」

「この辺りはとても浅いみたいですから遊べますよ、ローズ様」


 万が一の事があっても私がいますとシトリンに背中を押される。ニヤけた顔を見れば、注意された事への仕返しなのだろうとすぐに分かった。


「あ、シトリンの分もあるから一緒に着替えようね」

「えっ!? あの、私は泳ぎませんし遠慮をば……!」

「逃げるなよ。せっかくの息抜きなんだ、お前も着替えろ」

「クッ、味方すべきはこちらでしたか……!」


 シトリンは肌の露出を嫌がっているようだったが、シャルルの味方をしてローズを着替えさせようとした手前、自分だけ引き下がるわけにもいかずに着替えたくない気持ちをぐっと飲みこんで諦める。もう道は一本しかない。


 もし誰かが誤ってビーチに入ってきても見つからないよう岩陰に隠れ、包みの中にあった複数の水着を三人で選び始める。シャルルは「ボクは絶対これって決めてたんだ~。前に見かけたときから気になっててさ」と紺色のハイネックを手に取った。


「お前には似合いそうだな」

「でしょ。ローズは決まった?」


 ちらと見れば彼女はどうにもあれこれと手に取っては見るもののしっくりと来ていないようで「こういうの着慣れてないんだ」とやんわりと苦笑する。ドレスと違って着たくないわけではない。


「じゃあボクが選ぼうか。どれがいいかなあ……」


 ロジーに多めに用意させたので、シャルルも加わって二人で似合いそうなものを探す。シトリンはその間に自分の水着を見つけてさっさと着替え、隅のほうで一生懸命に歩く蟹をジッと眺めていた。


「ねえ、これなんかどうかな? 当たり障りないかもだけど」


 手に取ったのはワンショルダーのフリルがついたビキニで、普段の服と同じ黒色だ。あまり派手なのも似合わないだろうと彼女が探し出した一着をローズは受け取り「ありがとう、これにしよう」とひと安心したふうに息をつく。


 いつどれだけ濡れてもいいように着替えた後は、さっそく釣り竿を持って岩場までやってきて小さい木箱に詰めてもらったエサを使って釣りを始める。


「足を滑らせないように気を付けてくださいね。それからあまり遠く離れず、もし怪我をしたらすぐに仰ってください、骨が折れたくらいなら私が治します」


 勝負というわりにはのどかな空気で静かに釣りが始まり、軽く糸を垂らして泳いでいる小魚を狙う程度の遊びに興じ、釣れたらシトリンが数をカウントしていく。しばらくしてエサがなくなったら終わり、バケツに入った魚をみてシャルルは喜んだ。


「わりと釣れたね! もっとうまくいかないかと思ってた!」

「持って帰るには全部小さすぎるけどな。次は本格的にやろう」

「あはは……そうだね。で、シトリン! どっちが多かったの?」


 二人からの熱い視線を浴びて、彼女はバケツをちらっと見て言った。


「同じです。サイズで勝負していたらシャルル様の方が勝っていたかもしれませんが、残念ながら今回は『釣った数』での勝負ですので引き分け────」


 彼女は突然言葉を途切れさせ、砂浜から見える海の遠くを見つめてじっと固まる。ローズが「どうした?」と尋ねてハッと我に返る。


 彼女は小さく首を横に振った。


「すみません、なんでもないです。たぶん気のせいでしょう」

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