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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと花の国の騎士
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第39話「学び続ける姿勢」

 オーレリアンから酷い迷惑を被ったのはローズよりもシャルルだ。彼女の許可がなければ受けられない誘いで、話を振られると苦笑いをした。


「……ええっと、うん。ボクはもう怒ってないよ?」

「で、ではお誘いは受け取っていただけると」

「まあ、ローズも嫌じゃないみたいだし」

「それは良かった! ではそちらのお嬢様もぜひ」


 マリーが彼女たちの連れだと思った彼は、立ち上がると腰を低くして手を差し出す。彼女は照れ笑いをしながら「まあ、私、貴族じゃないけれど」と返す。


「お客人をもてなしたい気持ちに身分など必要ありません」

「そう? じゃあ、せっかくだから行こうかしら!」


 ホッとひと安心だ。先日の失態を挽回したい気持ちでいっぱいだったが、彼女たちが受けてくれるとは限らない。緊張で胸の詰まった感覚から解き放たれて、オーレリアンは「ではこちらへ!」と背を向けた後で、小さく胸の前でグッと拳を握って誇らしげに成し遂げたぞと笑みを浮かべた。


「やれやれ、積極的なヤツだ。少し付き合ってやるか」

「あはは。何が待ってるのか楽しみだね」

「私、二人に比べてちょっとクッキー食べ過ぎたかも」


 和気藹々とした空気の中、先頭を歩くオーレリアンは「そういえば」と、もうひとつ話しておきたい事があったと言う。


「なんだ、言っておくがしばらく仕事は受けないからな」

「ハッハッハ、ベアトリスの件でお疲れなのは分かってますよ」


 近衛隊が難儀していた事に協力してくれた魔女の活躍には謝礼こそすれ、他にこれ以上頼むべき仕事はなかった。まさに首都ペレニスは平和そのものだ。


「実は先ほどボリスから本当の話を聞きまして……ベアトリスを宮殿から出すのはレディ・ローズ、あなたのお考えだと。余計な手間を掛けさせてしまい、申し訳ない。父上には適当に嘘をついておきましたので今後もご心配なく」


 あのお喋りめと悪態をつきたくなったのを呑み込む。結果的にオーレリアンが味方についたのは悪くない結末と言えた。


「助かるよ、オーレリアン。お前は保身のために動くタイプだと思っていたが」

「先日まではそうだった、と肯定しましょう。色々と考え直したのです」


 自分をよく見せようとはせず誠実に答えた。意外だったのか、ローズは「ほう」と驚き、感心した。リベルモントの皇太子は若いわりによく考えている、と。


 しばらくして食堂に案内され、ちょうど訪れたタイミングでメイドたちが配膳を済ませたところだった。それぞれ席に着き、皿に盛られた料理を見つめた。三人の様子にオーレリアンはどこか落ち着かない様子をしている。


 最初に躊躇なく手を付けたのはローズだ。彼女に続いてシャルルとマリーも食器に手を伸ばし、ひと口、ふた口と食べていく。


「い、いかがでしょう。お口に合いましたか?」

「ふむ、そうだな。はっきり言わせてもらうとしたら……」


 もうひと口を食べる。じっくり味わって呑み込んでから。


「それほど美味しくはないな。先日のパーティで見た料理と比べれば、ずいぶんと見てくれも悪い。こんなものが出れば貴族たちからは批難されるだろう」


 そうですか、とオーレリアンはがっかりしてうつむいてしまう。しかし彼女は、ちらと彼を見てくすっとして言葉を紡ぐ。


「だが私は嫌いではない。この料理には誰かのためにという不器用な誠実さがある。さぞ苦労したんだろうな。よくできてるよ、お前の料理は(・・・・・・)


 褒められた瞬間、ぱあっと顔を上げて明るくしたが、自分の手料理だとばれて彼はまたうつむき、「気付いていらっしゃったんですか」と赤面する。


「まあ、お前の様子を見てたらな。だがなぜ料理をしてみようと?」

「あ……いや、実はなんといいますか、ハハハ……!」


 尋ねられて気恥ずかしいのか、言い出しにくそうにしながらも答えを待っている彼女に誠実であろうと、ひとつごくりと唾を飲み込んでシャルルを見る。


「まずは礼を言わせてほしい、シャルロット殿。あなたのおかげで、私も自分の歩き方を見つめ直す機会を頂いた。……これはその一歩です。料理をするというのも簡単な事ではありませんでしたから、とても良い勉強をさせていただきました」


 朝起きて、着替え、食事をする。彼にとっては誰かが起こしに来て、着替えを用意し、出された料理を食べるのが当たり前。そうなって当然だと思っていた。だがパーティの夜にシャルルの言葉を受け、最初はよく納得もできないでいたが、じっくりと考えてみて「ものは試しだ」といろいろ実践した。


 朝は自分で起き、着替えも自分で選んだ。それから厨房へ足を運び、料理人たちがせっせと働く姿を見て「こんなにも忙しいのか」と感心した後で自分も経験をしておいたほうがいいと判断した。


 最初こそ彼らに怪我でもされたら困ると言われたが無理を言って頼み込み、いざやってみるとあまりの難しさに心が折れそうだった。


「シャルロット殿。私もあなたの言うように、この身に時間は限られていようとも学び続ける姿勢でいたいと感じた。あなたのおかげだ、本当にありがとう」

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