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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと花の国の騎士
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第33話「本心を殺して」

 本人の口から出た言葉。彼女のいつもと違う様子を見てオーレリアンはとても悲しそうに肩を落とす。


「ああ、いったいなぜ……? 君ほど真面目な子が盗みなんて」

「申し訳ありません、殿下! 私は……その……!」


 言いづらそうにしている彼女を押しのけてローズが前にでた。


「オーレリアン、こいつが記憶を失くしていた事については?」

「存じております。……まさか?」

「ああ。最近になって記憶を取り戻したらしい」


 俯いて黙ったままのベアトリスに代わって彼女は続けた。


「宮殿で盗みを働いたのは病に罹った父親を救う手段になると思ったからだろう。私が会いに行ったとき風邪だと言っていたが、おそらくはもっと重いものだ。正直言って、今にも死にそうな雰囲気さえあった。立っているのも辛そうにしていたよ」


 オーレリアンはクロユリ地区で何があったのかを全て聞くと腕を組んで考え込んでしまう。治安が悪く酷い状態だとは聞いていたが、実際に見た事はなく近衛隊に一任していたので、実情を知ると頭を悩ませる。


「なるほど、事情はたいへんよく分かりました。ですが行いは決して許されていいものではない。しかるべき罰は必要でしょうね……」


 ボリスはともかくフェリシアがいる手前、うっかりでも話が漏れてしまえば、他のメイドたちに示しがつかないと断じて毅然とした態度を示す。


 今が好機だとばかりに目配せして、フェリシアは気付かれない程度に頷く。


「でしたら私に名案がございます、殿下」


 緊張して足が震える。制服がロングスカートで良かったと心底感じた。


「連れて来たラトクリフ様に罪はありませんが、所詮、彼女も卑しい部類の庶民だと言わざるを得ないでしょう。この栄えある宮殿で働き続けるにはあまりに相応しくないと思いませんか」


「……フム。ではフェリシア、君の意見を聞いても?」


 問われて彼女は嘲笑するように鼻を鳴らし、怯えるベアトリスを睨む。


「このような盗人でも多少の事情はあるようですし、晒し者にするのも殿下は(はばか)られるでしょう。大事になっても困るはずです。でしたら内密に彼女をペレニスから追放するのが最善かと。出て行けばいいんですよ、こんな〝枯れ木女〟なんて」


 周囲の人間には、あたかもメイドをやめて遠くで暮らすような言い訳をして、彼女をペレニスから追い出そうと言う。


「まったく、最低な気分だわ。こんなやつが友達面してたなんてね」


 そこまで言う必要はなかった。だが彼女のために結託しているなどオーレリアンに知られてはまずいと思って、あえて冷たく突き放す言い方をする。ベアトリスは今にも泣きだしそうに口をきゅっと結んで俯くだけだった。


 ローズは彼女が独断で言い出したのを後押しする。


「私も賛成だ。投獄するのは勧めたくない。かといってただメイドをやめたら良いというわけではないだろう。同じことを繰り返すかもしれない」


 フェリシアの覚悟に独りだけ辛い思いはさせまいと想いの乗った言葉に、オーレリアンも「レディ・ローズ、あなたも言うのなら」と、応えた。


「ではこれまでだな、ベアトリス。……残念だ。荷物を纏めてきなさい」

「……はい。本当に、申し訳、ありませんでした……」


 喉に詰まりそうな声を必死に絞り出して、重たい足取りで自室へ向かって行くベアトリスの背中を見送ったオーレリアンは心から辛そうにした。


「ボリス、私は父上に報告するので後は任せておく。うまく言いくるめておくから彼女が宮殿を去ったら伝えに来てくれ。……それからレディ・ローズに、お連れの皆様。この度はご迷惑をおかけしました。ご協力に感謝を」


 深々と頭を下げたあと彼は「ではまた」と宮殿へ戻る。ひと段落つき、ローズ以外の全員、肩の荷が下りたと大きなため息をつく。


「ありがとうございました、レディ・ローズ。まさかこのような形で彼女が投獄を免れるとは……フェリシア、あなたにも驚きましたよ」


 ボリスはホッと胸をなでおろすと同時に、ベアトリスの処遇について口を開く。


「宮殿をやめることになったのは残念ですが、これで少なくとも投獄は免れ、我が師の名誉も守られるわけですね。なんと感謝を述べたらよろしいのでしょう」


「感謝なんて飽きるほど聞いてきた。それに頑張ったのは私よりも──」


 ローズがフェリシアを見る。彼女こそ功労者だと。


「わ、私はただ、できる事をやっただけです……」

「そうだね。とても立派だったよ、お疲れ様」


 フェリシアの小さく見える背中をシャルルが優しくなでる。


「よく頑張ったね、フェリシア。君は本当にすごいや」

「……ありがとうございます。でも、あの子これからどうなるんですか?」


 金もなく家もない。働く場所を探すのも苦労する。自分の気持ちよりも彼女が無事に生きていけるのか、そればかりが心配で仕方ない。ローズは「安心しろ」と、温かい笑みを浮かべた。


「良い場所を用意してあるとも。やっと会えたんだ、少しの間は親子水入らずで過ごせる時間をくれてやるくらいのサービスはしてやらないとな」

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