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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと花の国の騎士

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第32話「真実を告げる」

────翌朝、陽が昇りきらない薄ぼんやりとした明るさが町に広がる頃。早々とマリーの馬車へシトリンが荷物を積み、それぞれ身支度を済ませて宮殿へ戻っていく。フェリシアとベアトリスはいつものメイド服に身を包み、夢のような昨夜の出来事を胸に仕舞い込んで気持ちを引き締めた。


 門前で二人の警備がいちど呼び止めたが、ローズだと分かるとすぐに通される。前庭を抜け、大きな二枚扉の入口の前で馬車をいったん止めると、ボリスとオーレリアンが話し込んでいるのを見つけた。


「……? おお、これはレディ・ローズ!」


 気付いたオーレリアンが大きな声で出迎える。


「朝からうるさい奴だな。ここで何を?」

「ええ、ええ。実は宮殿でちょっとした問題がありましてね」


 彼がボリスと話していたのは宮殿での盗難事件についてだ。近衛隊に捜査を任せており、その進展を尋ねて今後どうするかの計画を練っていた。


「なかなか証拠が掴めず聞き込みも実施したのですが……確証が持てない以上は特定の誰かを犯人と決めつけるわけにもいかず。レディ・ローズにも協力を仰いでいると、今しがたボリスから聞いたところなのです。なんでもクロユリ地区へ行ったとか?」


 聞いたとたんにベアトリスがびくっと小さく反応する。横目に見たローズは彼女の顔色が青ざめているのに、憐れむような想いを抱えつつ正直に「ああ、行ったよ。収穫もあった」そう答えた。そのために今日、足を運んだからだ。


「とりあえず人払いをしてくれ。周りの目があると話しにくい」

「では場所を変えますか? 部屋なら用意しましょう」

「いや、ここでいい。誰に聞き耳を立てられるかもわからない」


 なぜメイドたちが普段から話のネタに事欠かないのかは、少し考えれば分かる。ローズは視界の行き届く外のほうが逆に安全だと言った。オーレリアンの警護に関してはボリスが「私だけいれば問題ありませんでしょう」と進言すると、彼も頷いた。


「たしかに、彼女たちはいつでも興味に勝てないものです。警護は外して、少し前庭の方へ移動して話をいたしましょう。植え込みも低く、我が宮殿自慢の庭師が丁寧に手入れしてくれていますから、視界も開けていて隠れられる場所もありません」


 警護にあたっていた近衛隊には宮殿から他の誰も出てこないよう見張りをさせて場所を変え、周囲に誰もいない事をボリスに改めて確認させてから、オーレリアンは「では話を始めましょう、レディ・ローズ」と切り出す。


「クロユリ地区でなにがあったのかをお聞かせくださいますか?」

「ああ。単刀直入に言おう。──犯人はすでに見つかっている」


 親指で彼女は傍にいる一人の女性を示す。


「ベアトリス・モンステラ。彼女が盗難事件を起こした張本人だ」

「……はは、まさか! 本当におっしゃっているんですか?」


 オーレリアンはとても驚く。信じられないと言いたげに。


「彼女は宮殿内でもよく目立ちます。前任の近衛隊長からの紹介あって存じていますし私もずっと見てきましたが、真面目に働く良い子ですよ?」


「意外だな。お前、昨日はメイドくらい(・・・)なんて言い方をしてたのに」

「あ。いや、あれはですね……申し訳ない。そんなつもりはなかったんですが」


 熱意の塊のような男も、自身が間違っていたと認める事に関しては叱られると子犬のようにしゅんと落ち込んで反省した。


「フフッ。存外、面白い男だ。とにかく話を戻そう」

「ええ。ではお聞きしたいのですが、本当に彼女が?」


 オーレリアンは納得がいかなかった。ベアトリス・モンステラは、みるからに品行方正。他のメイドたちのように仕事を時折にサボったりもせず、決して文句のひとつ言わず嫌な顔もみせない。犯人と言われても、と困った様子だ。


 だが、一歩前に出たベアトリスが「事実でございます」と震えながら真実を告げる。顔は青ざめ、目は泳ぎ、心ここに在らずといった動揺ぶりで。


「す、すべて、事実で、ございます。……殿下」

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