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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズとプリンセス
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第16話「マリー・カレアナ」

 それからふたりは、ウェイリッジの町を散策する。これといって絶対に見る必要があるものもないが、目を惹く大道芸や、雑貨店に並ぶ可愛らしいぬいぐるみやティーカップに心を躍らせ、中央広場の大きな噴水の前で昼食に買ったパンを食べた。


 商館に着いたのは昼頃だ。商人たちが大勢行き交っているのをシャルルが物珍しそうに見つめている。「みんな忙しそうだね」彼女が言うと、ローズはふっと笑んだ。


「忙しくないほうが不思議さ。気を付けろよ、いい顔をしてはいるが彼らは損得勘定で生きているから、油断したら言いくるめられて必要のないものを買わされる」


 相手は商人だ。金のにおいを嗅ぎつけることには誰よりも長けている。彼らにとっては品物を高く買ってくれるなら相手がなんであれ、払うものを払って懐を潤してくれさえすればいい。そのぶん、恨みを買うことも少なくないようだが。


「ややっ、これはこれは魔女様! 何かお探しで?」


 言った傍から物怖じもせずにすり寄ってくる商人の男がいる。ふくよかで、そこそこに儲かっているのが分かる整った身なりをしていて、いかにもな雰囲気がある。魔女は貴族との繋がりが強いゆえに、こうして得体も知れない、ほとんど関わったこともないような相手が甘い蜜を求めてやってくるというわけだ。


「以前ここで話したことがあったな。そういえば名を聞いていなかった」

「ええ、わたくしはローレッツォと申しまして──」

「ではローレッツォ。商談が上手くいく秘訣を教えてやろう」


 ローズは男の身に着けるモノのなかで、最も高そうな金細工の施された腕輪にそっと指を触れる。たちまち、腕輪は金から鉄くずへと変わって崩れてしまった。


「相手を選ぶことだ。欲しいものがあるときは自分から声を掛ける。次に気安く話しかければ二度と商売ができないようにしてやるから、そのつもりでいろ」


 鼻っ柱をへし折るくらいの気持ちで、特別怒りを抱えているわけでもない彼女のいたずらにローレッツォと名乗った男は言葉を失い、怯えてしまった。シャルルが「いいの、あんなふうにあしらって」と囁くと、彼女は「当然だ」そう答えた。


「ヤツは下らない言葉と、ちょっとの金品で経験を買ったんだよ」


 くっくっと笑いを抑えながら、ローズは商館のなかへ歩いていく。もともと魔女とは恐れ多く、話しかける人間などがめつい商人であっても、そういない。相手がだれであるかを学べた良い機会だと考えるのが自然なのだろう。見ていた誰もが、その光景をみて、ローレッツォを愚か者だと馬鹿にしているようにさえ見えた。


「カレアナ。マリー・カレアナはいるか?」


 人でごった返している商館のなかで、ローズのはっきりした低めの声はよく響く。受付カウンターに座ってニコニコとしているだけで暇をしていそうな白髪の女性が彼女の声を追い掛けて、嬉しそうに表情を明るくする。


「まあ! ローズ、ひさしぶりにウェイリッジへ帰ってきたのね!」


 女性は若く、年頃的にはシャルルと変わらないか、もう少し大人なくらいだろう。小さな顔に、大きくてまんまるな花色の瞳がとても愛らしい顔立ちのマリーは幼い頃からローズと親交がある。その間柄はまるで血のつながった家族のようだ。


「なに、ちょっとした仕事のついでにな。明日には発つ予定だ」

「あら残念。じゃあ今日はうちで食事でもどうかしら」

「名案だ。私の連れもいっしょだが構わないかな?」


 傍にいるシャルルをまじまじと見つめて、にっこりと微笑む。


「とても可愛らしい彼氏さんね。マリーよ、よろしく!」


 シャルルは少し照れながら差し出された手を握りかえす。


「シャルルです。こちらこそよろしく、マリーさん」


 マリーが突然、きょとんとした。視線が手と顔を行き交って、彼女は「ふうん?」と何かを察したようにひとり頷き、やわらかな微笑みを見せながら。


「きっと私たち仲良くなれるわ、シャルル。あなたも楽しんでいってね」

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