第21話「懐かしい再会」
ウェイリッジに訪れたのは随分前で、何年かぶりに再会したマリーの姿は変わらぬ穏やかさと明るさを残しつつ、大人びた雰囲気がある。くっきりした整った顔立ちは彫像のように美しい。
「ハイ、ローズ! あなたもリベルモントに来てたのね!」
「ひさしぶりだ。お前こそどうしてここに?」
互いを懐かしく思い、固い握手を交わす。
「長いバカンスよ。たまには休んで遊んで来たらってパパが言うから、ローズみたいにひとり旅をね。けれど私は魔法なんて使えないでしょう? だから治安が良くて観光都市としても見所の多い場所って言えばリベルモントかなって」
カレアナ商会は毎日忙しいが人手が増えたこともあり、滅多に休まないマリーを労いたいと父親であるクロヴィスと大勢の仲間から数週間は旅行ができるだけのお金を持たされて、せっかくだからとリベルモントを訪れていた。自分の馬車を使ってきたのでリベルモントに到着するだけでも数日は掛かってしまったのは少し勿体なかったかな、と彼女は旅路を振り返った。
「昨日からここに泊まって、あちこちを見て回っていたらシャルルたちに会ったの。宿を探しているっていうから、ここがいちばん良いわ!……って教えたんだけれど駄目だったかしら? 余計なお節介をしてしまったのなら謝るわ」
「気にしなくていい。お前と会えたと思えば、むしろ良かった」
しばらく見ないうちに大人になったとローズは密かに成長を喜ぶ。
「あ、ローズ様。お戻りになられたんですね」
宿の奥から疲れた顔をみせるベアトリスとフェリシアがやってくる。必要のない気を利かせたボリスたちによって、二人の着替えなどがたっぷり用意されていたおかげで運ぶのが大変だったと揃って肩が凝ったと苦笑いを浮かべた。
「お前たちもご苦労だった。ほら、これをやるから少し遊んでこい」
使い道は自由だと伝えて数枚ずつ銅貨を渡す。
「いいんですか、魔女様。これ全部使ってしまっても?」
フェリシアが尋ねる隣でベアトリスも頷いて気にしている。
「宮殿で働いてるお前たちに与える給金としては少ないだろうが、今日だけ遊ぶくらいならそれで足りるだろう? もっと欲しいのなら言ってくれれば────」
ローズの肩を掴んでフェリシアが首をぶんぶん横に振った。彼女はすでに昨晩、金貨一枚を渡されている。
いくら魔女だからといって金銭感覚が緩すぎると心配した。
「……ま、いいか。では行ってこい、私は少しマリーと話がある」
「では魔女様のお言葉に甘えて。行きましょベアトリス?」
外なら人目も気にすることはない。まだ生誕祭は続いていて、宮殿から外へ出られたメイドなど彼女たち以外にいない。フェリシアはローズからふいに向けられた目に頷いてベアトリスを誘った。
「い、いいんですか。フェリシア様、私は別行動でも……」
「私が構わないと言ったのだから繰り返させないで」
ツンとした態度をしつつ、フェリシアは仄かに頬を染めて照れながら。
「せっかく誘ったんだからついて来なさいよ。あんたより私の方が良いお店をたくさん知ってるんだから。それとも魔女様の前で恥をかかせる気じゃないわよね」
「も、申し訳ありません。でしたらぜひ、ご一緒させていただきます!」
「ふん、いい返事じゃない。……じゃあ行きましょ」
楽し気に歩いていく背を見送ってから、最初に口を開いたのはマリーだ。「話って何かしら。ローズにしては深刻そうに聞こえたけど」と、なにやらいつもと違う雰囲気であると察していた。
「ああ、実はちょっとした事情があってな。こっちで全部済ませるつもりだったんだが、せっかく会えたことだから、ひとつ頼まれてはもらえないか?」




