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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと花の国の騎士
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第3話「魔女の付き添いに」

 二人はさっそく近くを歩いていたメイドに声を掛けてベアトリスの居場所を尋ねる。今はどうやら三階で窓拭きをしているらしく、メイドに礼を言ってから探しに向かう。宮殿の中は広いので、どこかへ行ってしまう前に会おうと急ぎ足だ。


「あ、ねえローズ。あの子だよ、たぶん」


 もう何年も会っていないシャルルも久しぶりに見る友人の成長した姿に確信は持てなかったが、似顔絵にあった女性と完璧に合致していて、ローズは見比べてから「そのようだな」と安堵の息をついて紙を折りたたんだ。


「お前がベアトリスか? 少し話を聞きたいんだが」


 窓の清掃に勤しんでいた女性が手を止める。燃えるような紅髪に彼女は淑女的な佇まいでスカートの裾を持ち上げながら、小さくお辞儀をしてみせる。


「魔女様にご挨拶申し上げます。ベアトリスは私で間違いありません」


 いっしょに清掃に携わっていたのだろう数名のメイドたちも同様に挨拶をするが、ローズは彼女たちには仕事に戻るよう言ってベアトリスだけを残す。


「あの。もしかして私は何か問題を……」


 不安そうな彼女にローズは首を横に振る。


「お前が思うようなことはないよ。ただ連れが会いたがってね」


 目配せされてシャルルが仄かに照れ笑いを浮かべて一歩前に出る。「ボクのこと覚えてるかな?」と声を掛けたとき、ベアトリスは目を丸くした。


「シャ、シャルロット様!? 申し訳ありません、すぐに気付かず……!」

「あっ。そんなにかしこまらないで。そういう身分は捨てたんだ」

「そうはいきません。シャルロット様はシャルロット様ですから」


 ローズが隣で肩をすくめて、おおげさにため息をつく。


「この国は華やかさのわりに頭が石のように固い連中ばかりか。せっかく友人として訪ねて来てるんだ、機嫌を取りたいのならなおの事、私たちの思う接し方をするべきだと思うが。お前はどう考えるかな、ベアトリス?」


 言われて彼女はうつむいてしまう。ちらちらと二人を見ながら。


「申し訳ありません……。でもどうして私に?」


 自分のような人間よりも他に会うべき人間はいくらでもいるはずだと卑下する。文通程度ならば誰に中身を知られる事もないので安心していたが、ベアトリスは自分がただのメイドであり身分もなく関わったら損をするだけではないか、と。


「最近ボクから手紙を出せていなかったでしょ。それでローズと話してさ、いっそ会いに行ってみよう!……ってことになったんだ。ずっと昔に会ったきりだから見違えちゃったよ。なんだかベアトリスはすごく綺麗になったね」


 照れ笑いを浮かべるベアトリスは「シャルロット様も凛々しくなられて」と返す。どちらも出会ったのは十三歳頃の話で、二十代半ばにもなるとすっかり大人だ。


「会いに来てくださって嬉しいです。お二人は観光ですか?」

「その予定だ。リベルモントは久しぶりでな」


 ローズの視線はベアトリスからはずれ、遠巻きに様子をうかがう他のメイドたちへ向けられる。彼女たちのまなざしは、どこか悪意や嫉妬を帯びていた。


(……理由は分からんが、あまり好かれていないらしい。たしかリベルモントの宮殿はメイドでもそれなりの地位を持つ家柄の人間が多いはず。身元のはっきりしないベアトリスが同じ立場であることが単純に疎ましいのかもしれんな)


 ローズの嫌いな部類の人間たちだ。どうしてやったものかと考えて────。


「ベアトリス。お前、今日は私たちの付き添いをしろ」

「……はい? え、あの。でも私にはお仕事が」

「そんなものは他のメイドにでもさせておけ。こっちが最優先だ」


 魔女の言葉はなにより優先される。たとえそれが王族であっても、魔女が欲しいと言えば渡すのが当たり前だ。実際に彼女がそんな要求をしたことはないが、連れまわすくらいならあとで許可を取るくらいの図々しさは持っている。


「ほら、シャルル。お前も見ていないでベアトリスを連れて行け」

「は~い! さ、行くよ。ローズが言ってるんだから!」

「で、でも本当に良いんですか、付き添いなんて私以外でも……」

「私が決めたことだ。気にせずにさっさと歩け」


 戸惑うベアトリスの背中を押してシャルルに連れて行かせ、遠巻きに見ていたメイドたちに振り返って彼女は、べっ、と舌を出していやらしく笑った。 

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