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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと小さな故郷
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第36話「百年でも二百年でも」

 帰路がいつもより遠く感じるのは気のせいではない。疲労とゆったりした足取りが重なったからだ。そのあいだローズはぽつり、ぽつりとシャルルに話をする。ずっと胸に溜めていたものを吐き出すように。


「私はな、シャルル。ずっと独りだったんだ。誰にも頼らず旅を続けて魔法の研究をして、それが当たり前だった。誰を好きになる事もなく興味も湧かなかった。そんな時間が永遠に続いていくんだろうと、ずっと思ってたのに、お前が現れた」


 夜道、明るい月の輝きがふたりを照らす。シャルルは黙って聞き続ける。


「マリアンヌからの依頼がなければ、きっと関わることもなかったんだろうな。最初はお前も同じだと思ってたんだ。魔女という存在に敬意を抱く人間は多い。お前だけが特別な話じゃなかったし、いつものように仕事を済ませて終わりにする。そういうはずで、なのにいつの間にかお前に触れていくうち、だんだんと……」


 シャルルはとにかく純粋で優しく、いつだって自分よりも誰かを優先する。たとえ自分を傷つけようとした相手でも、引き返せるのなら手を差し伸べられる。わざわざ誰かのためにそうある必要もないのに彼女の性格はそれを許さなかった。


 だからかローズもいっしょにいるうち『少しでも助けになってやれれば』と思うようになった。自分の時間を割き、いくつも重なる疲労にも耐えて魔法を使い、良い方向へ進めるだろうと信じ続けた。そして気が付いたときには。


「愛してる、シャルル。百年先も二百年先でもずっと。ああ、今だけは気弱になるのを許してくれ。なんだかとても、そういう気分なんだ。柄にもなく」


 うすぼんやりな視界。ふらつくからだ。しっかり支えるシャルルの温かさに、ローズはただただ身を任せる。もう独りになるのはいやだ。絶対に。そんな想いを胸に隠して。


「そんなの知ってるよ。ボクだって愛してる。これからも永遠に」


 それからは言葉少なく気付けば家まで帰ってきていた。疲れ切ったローズを寝室まで連れてベッドに寝かせた後は大人しくやわらかな寝息に安堵して、ひとり一階へと降りていく。キッチンで水を飲み、それから椅子に座って天井を仰ぐ。


「肩でもお揉みしましょうか、シャルロット?」


 突然現れたシトリンに驚いて「うわっ!」と声を上げる。椅子ごと後ろに倒れそうになるのを堪えて、ふくれっつらをした。


「もう、脅かさないでよ! ローズが起きちゃうでしょ!」

「それは失礼致しました。私は別に起きてもいいかなと思ったんですけど」


 彼女はカミラの手作りケーキの残りを食べている。なんの遠慮もなく。


「……ていうか今までどこで何してたの?」

「遊んでましたね。おふたりが歓迎会から帰る少し前くらいには傍に」


 特別な仕事もないときは基本的に色んな場所で何かしら暇をつぶしているのがシトリンだ。気が向けば世界各地のどこにだって出られるくらい魔女よりもずっと自由で、今日は旅客船にこっそり乗り込んでいた。


「正直、潮風はあまり好きじゃありませんでした。列車に揺られているときがいちばん楽しいですよ。景色も常に変化があって、とくに騒がしくもありませんし。それにほら、私って劇場とかあまり興味ないですから。つくられた感情を伴う芝居を見るより本物の感情の動態を観察しているほうがずっと愉快ですし」


 彼女は途端にニヤッと笑って口元を手で隠しながら目を細める。


「たとえば、ほら。さきほどの『ボクだって愛してる』なんて真剣な気持ちで口にするときなんて、演じるよりもずっと面白いではありませんか」


 シャルルとまったく同じ声で彼女はいたずらにそう口にした。

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