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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと小さな故郷

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第33話「理解されなくても」

 滞りない挨拶に拍手が広がって歓迎ムードだ。「ローズが選んだのなら」と誰も否定的な雰囲気はない。シャルルもホッと安心して照れながら椅子に座り直す。


「上手くいったね」


 小声でローズに言えば彼女も満足そうにした。


「ああ、さすがだよ。お前を連れてきて良かった」


 マクシムの合図で食事が始まる瞬間、向けられたローズの笑みにシャルルはどこか違和感を覚える。何かが不自然なように思えたが、そんな雰囲気は彼女から視線をわずかに逸らせば幻のごとく瞬く間に消えていた。


「どうした、何か私の顔についているか?」

「え。ううん、なんでもないよ。気のせいだったみたい」

「そうか。ならいいんだが……ほらはやく食べないと冷めるぞ」


 変だとはしつつも尋ねられずに料理に手をつける。周囲からは驚くほどの質問攻めだった。ローズとの出会いや旅の話。どうして彼女を好きになったのか。貴族たちの生活ぶりが実際にどんなものであるかまで根掘り葉掘りだ。食事を嗜んでいる暇もなく、出された飲み物ばかりが喉を通った。


「おい、そろそろ勘弁してやってくれないか?」


 ローズのひと声に集まった人たちはハッとした。見れば全然手が進んでいないのだから当然だ。少し離れた席にいた細身の女性も困った様子で「冷めてしまったわね。温めなおしてきましょうか」と苦笑いをする。


「いえ、お構いなく。……えっと」

「カミラよ。オーカーから来たの、よろしくね」

「お気遣いをありがとうございます。でも、もうお腹いっぱいで」

「あら、そう……? ならいいんだけれど」


 もうほとんどが食べ終わっている。マクシムがちらとローズを見て、彼女はこほんとひとつ咳ばらいをしてから「そろそろ片づけを始めようか」と席を立ちあがり、食事の済んだ者から食器を片付け始めた。


「ボクも手伝います。あ、ローズは座っててね」

「なんだ、私もそれくらいは────」

「だめ。すこしは休めるときに休んでもらわないと」

「……む。仕方ない、わかったよ」


 肩をがっちりつかまれて強く説得されてはローズといえど断り切れない。諦めて座っている事にして、シャルルが村の小さい子供たちに懐かれていっしょに楽しそうにしているのを見ながら水を飲む。


「ローズ。ローズったら、ぼんやりして。あの子がそんなに可愛いの?」

「ん? ああ、カミラか。……本当に良い子だろう」


 酒も飲んでいないのに、頬を紅く染めてうっとりしている。


「本当にご執心ねえ。でもどうして女の子を」

「ひよこでもないのに、そんなにオスかメスかが大事か?」

「私は構わないの、どっちでも。ただあなたが連れまわすってことは……」

「そうだよ、あの子は魔導書を開いた(・・・・・・・)。永遠の契約をしたんだ」


 聞いてカミラは渋い顔をする。魔女が持つ魔導書がどんなものか、ずっと昔に聞いたことがあった。ローズの言葉をはっきりと理解してため息をつく。


「ねえ、私のほうがあなたよりずっと生きてきた年数は少ないけど、それがどんな意味を持つかは分かるわ。本当に大丈夫なの? 永遠って気が遠くなりそうよ」


「私もそう思うよ、カミラ。でも、私たちが(・・・・)選んだのさ」


 コップの水を飲み干す。水滴がつうっと垂れるのを見つめながら。


「他の誰でもだめなんだよ。でももし、あの子が私を嫌いになったら、そのときは元に戻す方法を探してやるよ。たとえこの身が引き裂かれる想いをしても」


 魔法とは原初の魔女から引き継がれ、今もなお続く研究だ。まだ誰も見つけていない隠された手段があるはずで、ローズは必ずそれを見つけ出すと言う。何百年、何千年掛かろうとも、シャルルが元通りの人間に戻ることを望んだときには。


「それほど愛しているんだ。誰に理解されなくたっていい」

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