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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと小さな故郷

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第30話「二人のティータイム」

 軽い握手を交わしてマクシムは帰っていく。玄関を閉めて、ほうっ、とひと息。抱えていたケーキの入った紙袋をテーブルに置いた。


「すごくいい香りだねえ」

「食べるか? 歓迎会とやらまで時間もあるし」

「いいね。ほどほどに食べておこう!」

「よし、それなら紅茶でも淹れよう」


 キッチンへ向かおうとするローズを「ボクがやる」と慌てて席を立つ。


「大丈夫、別にこれくらいできるさ」

「じゃあいっしょに。ね?」


 どうしてもやりたがるシャルルに目を合わせてから、テーブルの紙袋を見る。


「ああ、構わないよ。だがケーキを切り分けてくれるほうが嬉しい」

「……あ! へへっ、たしかにそうだね。わかった!」


 迎えを待ちながらのティータイム。しっとりめのパウンドケーキをフォークで小さく口に運び、ときどき紅茶を飲む。会話らしい会話もないが、穏やかで心地が良い。


「ケーキ、すごく美味しいね。城で食べるものより好きかも」

「カミラの焼くケーキは村の外から買いに来るヤツもいるからな」


 食べながらローズはフォークを口にくわえた瞬間に「ん!」と、声を出す。もともと村に戻るのに、シャルルを連れて帰る以外の理由があった。ミランドラで暮らしているソフィアに故郷の美味いケーキを届ける。そのためにカミラを尋ねなければならなかったのを思い出す。色々ありすぎて頭の片隅に置きっぱなしになっていた。


「ゆっくりしてる暇がないな。列車に揺られていた頃が恋しいよ」

「ローズ、揺られながら本を読むの大好きだもんね」

「ああ。なんとも言えない心地良さがあるんだ」


 今は二人で並んで座って読むことが増えたが、一人のときからよくローズは読書に没頭していた。ときどき魔導書をシトリンに預けて、興味の湧いた本──とくに知識の糧になりそうなもの──を好んだ。最近ではシャルルがおとぎ話を好むので、彼女の趣味を優先して読むようになっていたが。


「そういえば、買った本とかっていつもどこにあるの?」

「……シトリンに管理を任せてあるから、私もよく知らないな」


 いつも大量に買い込んだりしたものは『私にお任せください』とシトリンがどこかに片付けてしまう。必要なときはどこからともなく取り出してくるので困った事もなく、あまり考えてこなかったが改めて言われてみると少し気になった。


 しかし今は微かにも彼女の気配を感じることはなく、不在のようだとローズは呼び出して直接聞くのをあきらめる。


「ま、そのうち聞ける機会はいくらでもある。どうせ聞かなかったから言わなかった、とか言うだけで隠しているわけではないだろうし」


「あはは! たしかにシトリンだったら言いそう。ちくっと針で刺すみたいに!」


 当人がいないのをいい事に、二人でくすくす笑う。


 楽しい時間はあっという間に過ぎていき、気付けば迎えが来て玄関の扉が叩かれる。歓談も程々に、ローズは席を立って「誰だろうな」と開けにいく。


「はいはい、どちらさまかな?」

「こ、こんばんは。ローズ」


 顔を見せたのは、いかにもな青白さをしたハヴェルだ。おどおどしていて挙動不審。ローズは呆れて「しゃきっとしろ。迎えに来たんだろう?」そう言って眉間にしわを寄せる。「うん、そうだけど……」と返事をしながらも視線は部屋にいるシャルルへ向けられた。彼女は中からニッコリと手を小さく振るだけだ。


 何も言わなかったのだとすぐにわかって拳を握りしめて俯く。瓶で殴るなど普通ならば死んでいてもおかしくないほどの重大な事なのに、どうして? と頭の中が整理しきれない。それでもローズの家を訪ねて自ら迎え役を買って出たのはなんのためか自問自答して、意を決した彼はしっかり前を向いた。


「あの俺……ローズとシャルロットさんに謝りたいことが──」

「言われて『わかった』と許せる話なら聞いてやるが?」


 被せるように言ってローズは熱の失せた瞳で彼を見た。

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