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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと小さな故郷
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第24話「嘘つきを見つけた」

 深々と頭を下げたシトリンにハヴェルも同じようにして返す。少し顔を紅くして照れているようだった。それから二人を見て「あ、それでローズは?」と彼女がいないのを不思議がった。いつもなら先頭に立っていておかしくないからだ。


「まだ疲れも取れ切っていないので自宅でお休みになられています。私たちはいわゆる代理としてハヴェル様にお話しを伺いたくやってまいりました」


 その言葉に一瞬だけ彼の様子が変わったのをシャルルは見逃さなかった。


「実はローズの大切にしている本がなくなったんだ。今、一生懸命探していてね。このあとウルリッヒさんのところにもいく予定でさ。ハヴェルは何か見てない? 黒い表紙に金の刺繍がされてる分厚いヤツなんだけど……」


 食事の支度を進めながら彼は知らないと答える。視線はちっとも向けられず、シャルルは「そう、ならいいんだ」と追及はしなかった。


「忙しいところを邪魔してごめん、また来るね」

「気にしないでくれよ。次はメシの用意もしとくから」

「ハハ、ありがと。そのときはローズも連れてこよう」


 会話を長く続けたりはせず手短に済ませて家を出る。ミランダにも礼を言って敷地を出た後で、シャルルはぽんと手を叩いて「あ、そういえば用事があったんだった!」そう言ってシトリンにオーカーのウルリッヒを訪ねるよう頼んだ。


「ボク、ちょっと寄らないといけないところがあるんだ」

「そうなのですか? 分かりました、では私が話を聞いてきましょう」

「ごめんね、頼んだよ。それじゃあまたあとで!」


 集会所へ向かう素振りを見せてシトリンと別れ、しばらく待つ。彼女が村を出て行って遠目に豆粒ほどの小ささで見えるようになってからミランダの家へ引き返す。絶対に彼が本を持っているはずだ、と。


 とはいえ杞憂の可能性もある。間違ってもハヴェルが本を処分してしまわないように注意をしながら、オーカーのウルリッヒも訪ねておきたかった。シトリンにはそれとなく仕事を頼み、自分は最も可能性が高い方へ残った。


 外にはもうミランダはおらず、家の傍に寄ってみると微かに会話が聞こえてくる。窓からこっそり覗けば二人が静かに食事をしながら午後の予定を話していた。


(あまり気になる会話はしてないな。さて、どうやって彼を問いただそう?)


 いくら本を持っている疑いがあるとしても実直に尋ねて真実が出てくるわけでもない。どこかに隠しているのなら彼を冷静に説き伏せる以外ない。もし持っていたら、どうして盗んだのかも聞きたかった。彼の口から本当の話を。


 うんうん唸って策を考えているうち、ふと聞こえてきた言葉がある。


『そういえば昨日ローズから借りてきたって、あの本はどんな話なんだい?』

『え……ああ、うん。おとぎ話の本だよ。面白いからって借りたんだ』


 そんなことがあっただろうかと耳を澄ませて記憶を辿る。彼は続けて『まだ読めてないけど』と言ったので、開いていないのだと安堵した。


 直後、本を回収する方法を思いついて彼女は玄関を叩く。


「すみません、さきほど訪ねたシャルロットです。聞き忘れていた事があって」


 ぱたぱたとスリッパの駆けてくる音がする。出迎えたのはミランダだ。


「ごめんねえ。今、朝食を頂いていたのよ。聞き忘れていたことってなんだい?」


 緊張を取り繕う笑顔で胸に手を当てたシャルルが優しい声色で言った。


「ええ、ローズが昨日、彼に貸すはずだった本を間違えて渡してしまったらしくて。代わりのものを持ってくるのを忘れてしまったんですが、せっかく近くに寄ったのですから、先に返して頂いたほうが良いかと思ったのです」


 小さくお辞儀をして彼女は続けざまに。


「お食事の邪魔をしたくはありませんので自分で取りに行きますから、ハヴェルくんに本の場所をお尋ねしたいのです。構いませんか、レディ・ミランダ?」

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