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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと小さな故郷
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第16話「はやく元気に」

 のんびりとした空気が流れ、歓談に食事も進む。今朝とは打って変わって穏やかな顔つきになったハヴェルも、シャルルの手料理に舌鼓を打った。「はは、美味いな。さすがだよ、シャルル」とローズも満足げに頷く。


「ね、ボクにも出来ただろう? ちょっと散らかしちゃったけど」


 キッチンを振り返れば使った調理器具や皿などがごっちゃりとしている。


「どうせ片付けるんだ、別に散らかっていてもいい」

「ふふ、任せといてよ。ばっちり片付けとくから!」

「……元気いっぱいだな。私もはやく疲れを取らないと」

「そうだよ。食べ終わったら、また安静にしててね」


 記憶力の良いシャルルはもうローズの家に馴染んでいる。どこに何があるかをいちど見ただけで覚えたので、彼女にあれこれと尋ねることもない。しっかり者の気質が活き活きとしていた。すこし薄い胸を張って、にこやかだ。


「たまには甘えさせてもらうよ」


 早々に食事を終えて席を立つ。部屋に戻る前に「ああ、ウルリッヒ。ユルゲンによろしく言っておいてくれ」と伝えてから階段をあがった。


(はあ、まったく。この調子だと体力が戻るのは明日の晩か、あるいは明後日か。マクシムとハヴェルのこともあるし、できるだけゆっくり休まなくてはな)


 浴室で倒れたときと比べればかなり良くはなっていたが、それでも足は少しふらついていて重く感じたし、頭の中はもやがかかったみたいにぼんやりしている。


 平気そうに振舞えただろうか、と心配をかけていないか不安になりつつベッドにもぐりこむ。


「おかえりなさいませ、ローズ様」

「……シトリン。その手に持っている水はなんだ?」


 無表情だが待っていましたとばかりにコップを手に持ち「食事を終えましたので、お薬を飲まれるかと思いまして」そう言って、粉薬の包み紙を見せた。


「まさか魔女ともあろうお方が幼子のように薬を飲みたくないと駄々をこねるなど、そんなはずはありませんよね? はやく体調を戻しませんと」


「わ、分かっている。飲むとも、もちろんな。……ちっ、嫌な奴め」

「何かおっしゃいましたか?」

「いいや何も。はやく寄越せ、飲むから」


 渋々我慢して飲むも、のどに張り付く苦さに眉根を寄せて吐き気を催す。


「最悪だ。せっかく美味いものを食べたばかりなのに」

「諦めましょう、体調を良くするためには仕方ありませんから」

「そう思うなら人の不幸を嬉しそうにするな。腹が立つ」

「顔に出てましたか? 表情は極力出さないようにしているのですが」


 頬をつまんで引っ張りながら不思議そうにする。感情がない訳ではなく無表情に徹しているだけだ。誰にも悟られない自信があるし実際ほとんどがそうだ。しかしローズは喜怒哀楽を的確に見抜いてくるので、心底訳が分からなかった。


「そうやって普段は気付くのに、大事なときは気付きませんよね」

「なんだ、嫌味か。それとも訳の分からない話か?」

「どちらでもないと思いますが。困ったお方です、本当に」


 呆れて物も言えないといったふうに肩をすくめてシトリンはすがたを消してしまう。なにが言いたいんだと尋ねる前に彼女の気配がなくなって、ため息が出た。


「たまにはハッキリ言ってくれ。ただでさえ頭を抱えたいのに」


 ヴィンヤードに戻ってきてから考えるべきことが多すぎて、体調が悪くなくても頭痛がしてきそうなくらいだ。その中でチクリと刺すようなことを言われても、と気弱なことを思いながら横になって目を瞑った。


「……もう寝よう。考えるのは明日だ」


 喉にいまだ感じる苦みが取れると、ゆっくり眠りに落ちていった。

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