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紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと小さな故郷

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第11話「やっと落ち着いた」

 腕で涙をぬぐってハヴェルが「うん」と消え入るような声で返事をする。


「では決まりだ」


 ローズは先に部屋を出て外へ行き、軒先で椅子に座って休んでいるミランダに「終わったのかい?」と尋ねられて「ハヴェルを少し借りていくよ」と仄かに笑みを浮かべた。


「ふふ、ローズちゃんは相変わらず優しいわねえ」

「優しくなんかないさ。思ったことを話しただけだよ」


 ほどなくしてバツのわるい顔でハヴェルが出てきて、つい目を逸らしたのでローズが腰を軽く肘で突いて「言うべきことがあるだろう」と叱った。


「ご、ごめんミランダ婆ちゃん……。ありがとう」

「いいのよ。またおいで、次はお茶を出してあげるから」


 ミランダと別れたあと、まだおどおどして落ち着きのないハヴェルといっしょに坂道を歩く。途中、マクシムが集会所の近くに立っていてふたりを見つけて声を掛けようとしたが、ローズがやんわり首を横に振ったのを少し残念そうにしながら、集会所のほうへ戻っていった。


「……ねえ、あの、謝った方が良かったんじゃ」とハヴェルに言われて彼女は「今は必要ない」、そうはっきり答える。


「お互い、言い争ったあとだろう。ただでさえ落ち着いてもないヤツ同士が言葉を交わして、また喧嘩にでもなったらどうする? 少し間を置いて気持ちの整理をしてから会いに行けばいい。急いで得をするのは商人が金に困ってるときだけだ」


 マクシムにもハヴェルにも譲れない部分がある。感情の波が大きく揺れやすいときに顔を合わせてまた衝突でもしようものなら、ローズもいい加減にしろと怒鳴ってしまう自信があった。


 ただ泣きじゃくる赤子であれば我慢もできる。が、彼らは既に成熟した大人であり感情に任せて言葉を並べ立てて訴えてくるのは彼女にも扱いきれない。


「それよりもう少しこっちに寄れ、肩が濡れるぞ」

「えっ! いや、いいよ気にしなくても……!」


 首をぶんぶん振って断っても、雨に濡れては風邪を引くからとローズは譲らず、意固地になって言うことを聞こうとしない彼のほうへ自ら歩み寄って傘の下に入れる。


「ご、ごめん……。ありがとう、ローズ」

「必要もないのにいちいち謝らなくていい、悪いことはしてないんだから」

「あ……そ、そうだよな。ごめ──じゃなかった、気を付けるよ」

「その調子だ。最初は簡単にできないものさ、何でもな」


 坂の上には敷地の石垣が見えている。近くに傘をさして、雨のなか帰りを待っていたシャルルが歩いてくるふたりに気付いて手を振った。


「おかえり! ハヴェルくんもいるんだね、元気そうで良かった」

「ああ。色々と事情もあるから話は中でしよう。……そうだ、馬車は?」

「マクシムさんが雨に濡れないようにって預かってくれたよ」

「そうか、礼を言っておかないとな」

「うん。……って、あ! ローズったら肩がびしょ濡れじゃないか!」


 歩いて来るとき傘を持っていたローズは、気を遣ってハヴェルが少しでも濡れないよう傘の下に入れたあと、悟られないほど静かにゆっくり位置をずらして歩いていた。彼女は目配せをして「ほんとうだ、気付かなかったよ」とシャルルに気付かせる。


 自分が気を遣わせてしまったと思ったハヴェルの表情をちらっと見て「ローズってばよくやるよねえ」と情けない棒読み具合で「タオルを用意するから、はやく入ろう!」とわざとらしく急がせた。


 傘の水を軽く払ってから閉じて家のなかに戻り、やっとそれぞれひと段落がついたように落ち着く。シャルルがまだ慣れない家のなかでタオルを探す間、ローズはさっさと風呂場へ向かって「温まってくる」と濡れた服を脱ぎ始めた。


 扉が開いているのを見て「あっちに行ってろ」と近くにいたハヴェルをダイニングで待つよう言った。


 浴槽に水を溜め、指で触れる。紫の輝きが浴槽を包むように伝い、水は瞬く間にお湯へ変わった。シンクの傍にある棚から瓶を手に取り、なかに入った白い粉を浴槽に沈めてかき混ぜて泡立て、大きなやわらかいスポンジを持ってからゆっくり浸かる。


 天井を見上げてひと言。「……疲れた」そう呟いて、ゆっくり目を閉じた。

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