7. 花と仲直りの証
その日は、着ぐるみ姿で愛想を振りまく仕事だった。
なんだこれは。あついし動きにくい。まるで重鎧を着ているようだった。しかし、お子様には大人気なようで立っているだけでわらわらと集まってくる。
どうせならと、仕事先の責任者に断ってから着ぐるみを借りた。そのままの格好で孤児院に向かった。
ここでも大人気なようだった。ただ、ここの子供たちときたら若干攻撃的なようで、体ごとぶつかるように抱きついてくるし、足からよじ登って肩に乗ってくる。
子供に体中まとわりつかれて動けなくなったところで、リーリャから助けが入った。
「みなさん、勇者様がもってきたお土産のお菓子がありますよ」
一斉に食堂の方に向かい、体が軽くなった。
「あいかわらず、あいつらはバーサーカーだな」
「いつもすいません、子供たちも勇者様がいらっしゃるとはしゃいでしまって」
ぬいぐるみの頭をぬいで脇に抱えながら食堂に向かう。騒がしい中、ロームが声を張り上げながら子供たちに指示を出している。
「にいちゃんの席はねえちゃんの隣な」
みんなで仲良く座ると、いただきますの声を合図に一斉に口のなかいっぱいにほおばりだす。
隣の席のリーリャは、そんな子供たちの様子をみながら微笑んでいる。
魔物のことは衛兵を通して報告したが、追って調査をすると聞かされたきりだった。
他の地域からも不穏な噂が聞こえてくることはなく、ただの杞憂だったのかもしれない、と思うことにした。
「それにしても、ロームとは仲良くなれたみたいだな」
ロームがリーリャにむける視線に険は感じられなかった。呼び捨てだったのに、ねえちゃんと親しそうに呼んでいる。
そういえば花は見つかったのかと思い出すと、一輪の青い花が飾られていた。
「ロームが私にって持って来てくれたんです。お母様の好きだった花だそうですよ」
なんとなく想像できる。ぶっきらぼうに花を渡しているロームの姿を。にやにやと笑いかけると、ロームがむっとしたように睨み付けてくる。
「へぇ、ローム。おまえも女子に花を渡すなんて、ずいぶんとやるんもんじゃねえか」
「べっ、別に変な意味であげたんじゃないからな!」
顔を赤くしながら大声で言うと、ロームは子供たちを昼寝に連れて行った。
残された二人で後片付けを始める。皿を洗い、戸棚にしまっていく。
「ロームもかわいいところがあるな。そのうち、花束をもってプロポーズしてくるかもな」
「かわらかわないでくださいよ。もう」
ゆったりとした時間のなかで、二人で笑いあう。
役目と責任、いまだにそれが僧侶を縛り付けている。
もっと気楽にいきてほしい。
盗賊の奔放さや、あとは、あいつあたりのマイペースさを少しでも分けてもらえばいいのになんて思っていると―――
「いたわね!」
無遠慮な大声でオレの名前が呼ばれた。
つばの広い帽子をかぶった小柄な姿、赤い瞳を猫のようにつりあげている。かつて旅を共にした魔法使いのマホだった。ぶかぶかの男物の黒ローブ姿は旅のときとまったく変わらない。
「よぉ、ひさしぶり」
軽く手をあげて挨拶をするが、のしのしとこちらに大またで近づいてくる。
「リーリャから聞いてようやく見つけたわよ。きなさい、いますぐ!」
「いやいや、ちょっと待てよ。急すぎるだろ」
「帰ったら研究を手伝うって約束したはずよ」
助けを求めてリーリャの方を見る。しかし、彼女は笑って手を振っている。
「ここはもう大丈夫ですから」
オレが大丈夫じゃない。
小柄な体でどうしてここまで力がでるのかと思いながら、ずるずると引きずられていった。