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5. 赤ん坊のあやしかた

「おぎゃああ~~~!」

 

 赤ん坊の泣き声が往来で響いている。

 人々が遠巻きにながめるなかで、赤ん坊を抱いているのはリーリャだった。

 

「どうしたんだ? その子は?」

 

 彼女の胸元から赤ん坊の泣き声が響いている。眉を八の字にして、心底困っているようだった。

 事情を聞くと、唐突に見知らぬ女性に押し付けられて、驚いている間に見失ってしまったらしい。

 

「この子をよろしくお願いしますって言ったきり、どこかに行ってしまって」

 

 孤児院で彼女が働いているということを知っていて、渡したのかもしれない。

 周囲の人間に母親について聞いてみるがみんな首をふるばかり。とりあえず孤児院につれて帰ろうとしたところ、横から割り込むように声がかかった。

 

「あーもー、何やってんだよ。ほら、貸してみろ」

 

 そういって、赤ん坊を受け取ったのはロームだった。あやしはじめると、すぐに泣き止んで上機嫌に笑い出した。

 

「ローム、ありがとうございます」

 

「べつにいいよ。あんたのヘタクソなあやしかたじゃ、赤ん坊がかわいそうだから」

 

 赤ん坊を抱く手つきは慣れたもので、危うげがない。

 

「チビたちの面倒を見てきたからな。年季がちがうんだよ」

 

「それにしても、ちょうどいいタイミングで現れたな。まるでずっと見てたみたいに」

 

「そ、そんなわけないだろ。いいから行くぞ」

 

「おい、孤児院にいくんじゃないのか?」

 

 赤ん坊を抱いたまま進んでいこうとするロームが歩き出したのはまったく違う方向だった。

 

「あの子の親を探すんだよ」

 

「放っておけよ。子供を捨てるようなやつを見つけても、同じことを繰り返すぞ」

 

 ロームは「じゃあいいよ」といって一人でさっさと歩き出す。

 言い出したら聞きそうにない。リーリャと二人でロームのあとを追いかけた。

 

 ロームの歩みが遅くなってきている。小さな赤ん坊とはいっても、抱え続けるのは子供の腕にはきついだろう。

 

「ローム、赤ん坊の抱き方教えていただけませんか?」

 

「……いい、オレが持ってるから」

 

「急いでいるんだろ。母親を探すならリーリャに任せた方がいい」

 

 ロームは不承不承といった様子で、赤ん坊を手渡す。頭の後ろから首の下に手をいれて、もう片方の手でおしりを支えるように添える。ロームに教えてもらいながら、慎重に胸に引き寄せた。

 

 今度は、安心した様子で赤ん坊は泣き出すこともなかった。

 

「なーんか危なっかしいな。ほんとにだいじょうぶか?」

 

「が、がんばります」

 

 赤ん坊を落とさないように慎重に歩くリーリャを見ながら、ロームは鼻を鳴らす。

 

 母親の行く先を聞いてまわると、それはだんだんと街の外に向かっていた。やがて、門を守る衛兵から外に出たことを知った。

 

 彼女は、軽装で旅にでるという感じではなかった。近くで所用を済ませるというわけでもなく、手ぶらの彼女のことを衛兵はよく覚えていた。

 魔王が退治されて魔物も出なくなったので、強くは引きとめなかったらしい。

 

「なんで、こんな場所にきたんだ?」

 

「さあな、ピクニックってわけでもないだろ」

 

 やがて森の近くに差し掛かったとき、木々の隙間から悲鳴が聞こえた。同時に感じた魔力反応に、全身の毛が逆立つようなさ寒々しい感覚が体を這った。

 

 顔を強張らせたリーリャと視線を交わす。

 

「リーリャ、二人を頼む!」

 

 体内の魔力を練り上げ身体能力を上げると、木々の隙間を駆け抜ける。

 研ぎ澄ました感覚の中、森の中がやけに静かだった。

 森の中が震えている。

 

 それはすぐに見つかった。

 

 恐怖に顔をゆがめた女性が地面に手をつき、ただ眼前の異形を凝視している。それは獣ではない。頭がある、腕がある、足がある。しかし、決して人間と認めることはできない。

 長さや関節の位置が歪に狂っている。幼児が粘土をこねて人型にしたような姿形をしていた。

 人間に似ているからこそ、それが持つのっぺりした肉色の表面は見るものに怖気を感じさせる。

 

 それは―――

 

「悪い冗談だな……」

 

 ―――『魔物』と呼ばれる存在であった。

 

 口だけが異様に大きくまぶたのない瞳がこちらをむいた

 

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