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30. いつもどおりの日常

 場所はいつもの酒場。同じテーブル。そこにいるのもいつもの面子であるシルフィの姿。

 マホも誘ってみたことはあるが、研究が忙しいと断られた。酒なんてどうして飲むのか理解できないらしい。リーリャは孤児院で子供たちを寝かしつけている頃だろう。

 

「この間のは、おもしろいものを見せてもらったよ」

 

「結局、オレを誘い出すってのは合ってたみたいだけど……」

 

 おもしろがるように口の端を引く。こいつ、本当は全部わかってたんじゃないかと疑いの目を向けたくなる。

 すると、あっさり白状してきた。

 

「いやあ、コレを機に勇者さんがご自身のことを名乗らないかと。国としては勇者さんが旗印になってくれうると助かるってことを上司から言われてね。この間の無茶で、上司の視線が痛いんだよ」

 

 リーリャとマホの存在のおかげで、教会と国のメンツが保てている。そして、一般人代表としてオレが目立つようになれば、民衆の機嫌もよくなるということを企んだらしい。

 

「残念だが、そんなつもりはさらさらないって言っておいてくれ」

 

「うん、そうするよ」

 

 うなずくとシルフィはあっさりと引き下がった。国に仕え、命令に忠実に動く兵士がそれでいいのかと不安になる。

 

「正直、勇者さんはよくやっていると思うよ。魔王との戦いで生き残った英雄は、祀り上げられた挙句いいように政治の道具に使い潰されるなんてことが多いらしいから。だから、キミみたいに自由に生きていけるのは本当にめずらしいんだ」

 

「オレのは別にそういうのじゃないから。だいたい、それをいったらおまえだってそうだろ。それにマホほど我が道をいくやつは見たことがない」

 

「まるでわたしたちが変人揃いのパーティーみたいじゃないか。まあ、勇者たちをそんな風にしか見ない国や教会の方が問題なんだけどね」

 

 リーリャのことが頭をよぎる。

 彼女のような存在を生み出すための実験が長く続けられてきた。それは、クルツ神父の思いとは別に、教会の一部の人間もまた同じことを考えていたということだ。


 暗い考えに沈みそうになると、シルフィの声が差し込まれた。

 

「それで、最近はどうなの? 仕事は決まりそう?」

 

「どうっていわれても、いつも通りだ。ぼちぼちってところだな」

 

 日雇いの仕事で働き、孤児院で子供たちの相手をして、シルフィと酒場で酒盃を交わす。ときおり、一緒に遺跡探索をして、マホのところに報告に向かう。それが日常になっていた。

 

「キミが自分の意志でそうやっているのは百も承知だけど、そろそろ落ち着いてもいいんじゃないのかな?」

 

「もうちょっとさ、こうしていたいんだよ……」

 

「ばかだねぇ。そうやって先延ばししてたせいで、村の幼馴染ちゃんのことをつかみ損ねたんでしょ」

 

「その話は、もうよしてくれよ……」

 

 からかう口調のシルフィに苦笑いで応える。だが、こうして過去の笑い話として片付けられるようにはなったらしい。

 

「で、どうなの? 気になるひととかいないの?」

 

「落ち着くって、そっちの方か。そういうのははまっとうな仕事についてからだ」

 

「たとえば僧侶ちゃんとか、魔法使いちゃんのこととかどう思ってるのかな?」

 

 おもしろい話を求めているのだろうけど、あの二人とはそんな関係にはならないだろう。だいたい、むこうがオレを相手にしないだろう。教会の聖女様に、魔導院のエリート。あの二人が知り合いなんて故郷の村で自慢できるな。

 

「……それはないだろ」

 

 だいたい、マホのやつは好きなひとがいるんだからから。

 

「えっ、それほんと?」

 

 声に出てたらしい。

 目を輝かせるシルフィの前で黙秘を続けることは無理そうだった。これと決めればこちらの意志など意に介せず、というよりも他人の意志すらも誘導し退路をふさいで思い通りに事を進める。

 他人を振り回すことはあっても、振り回されることは無い。

 

「その情報は誰から聞いたものなのかな?」

 

「そりゃ、本人からだけど」

 

「げぇっ!? あの魔法使いちゃんからいったのか~。それで……勇者さんはどう返事したのかな……?」

 

「もちろん、応援するぞって」

 

 それまでおもしろそうに目を輝かせていたシルフィが、盛大なため息を吐いた。

 

「なんていうか、見てらんない……。うーん、平等にチャンスがあるべきよね……」

 

 なんかブツブツと言っている。いやな予感がするなぁって思ったんですよ。

 

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