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2. 仲間との再会

 朝日で目が覚める。

 野宿でごつごつした地面の上でねたときと違って、宿屋のベッドの上は天国だった。

 

 王都での生活もようやく慣れてきた。いままで見ていた夢とこれからの現実。そんな曖昧な境界になんとなく区別をつけながらぼんやりと目を覚ました。

 

 魔王もいなくなり、聖剣は国に返却した。勇者という肩書きもなくなって無職というわけだ。

 村には帰りづらいし、しばらく王都でのんびりしていよう。しかし、先立つものが必要なわけで、こうして働きに出ている。

 

 

 村以外での仕事なんて初めてで、なかなか慣れない。

 魔物の被害がいまだ残っているせいで、日雇いの仕事はいくらでもあるらしい。


「ん? 見ない顔だな」


「あ、はい、ヒイロっていいます」


「ほーう、魔王を倒した勇者様と同じ名前じゃないか。縁起がいいな」


 名前も知らないおっさんは、豪快に笑ってばしばしと肩を叩いてくる。

 

 重たい荷物を肩にかつぎ、汗をながしていく。


「おい、おまえ、それを上げろ!」


 荒っぽい声で、指示がとぶたびに急いで向かう。

 馬鹿でかい機材を傾斜させた板の上に押し上げていく。

 

「今日は割としんどい方だな。新入り、なかなかよく動けているじゃないか」


 剣を振っていたときとは違う筋肉が悲鳴をあげてる。荷物運びと雑用ばかりの中、他のひとたちは慣れたうごきで働いている。

 中には腕や膝などにまだ包帯を巻きつけているひともいたし、首の後ろに傷痕がついてるひともいた。生きるのって大変だなと思った。

 

 名前も知らないひとと挨拶して、名前も知らないひとと荷物を一緒に持って、名前の知らないやつと昼飯を食った。

 お互い様だろうけど、それぞれの人生があるのだろうなと思う。

 

 朝起きて働いて、夜眠る、一定の速度で進んでいく生活は悪くないと思えた。

 仕事帰りの一杯を求めて酒場に向かう。

 この前ばったりと会った仲間の一人と約束していた。それぞれの生活に戻って、積もる話もあるだろうとちょっと楽しみだった。



 顔を赤らめ楽しげな声でにぎわう中、見知った顔を見つける。銀色の短髪の下で親しげな笑顔を向けてくる。


「やあ、勇者さん」


 彼女はシルフィ。スレンダーな体型と服装が相まって、少年っぽく見えるが2つ上の成人女性である。旅の途中の遺跡で仲間となり、職業は遺跡探掘家だと自称していた。しかし、その言動や性格は『盗賊』と呼ぶ方が似合っていた。

 

 世間話から始まり、互いの近況を交えて酒を酌み交わす。酔いが進むにつれて口のすべりもよくなる。気がつけば、幼馴染のことばかりを話していた。

 

「あー、ちくしょう。分かってるよ、分かってるんだよ。出発前に告白して約束していれば、こんなことにはならなかったって!」

 

 王都の酒場のさわがしい喧騒の中、シルフィはそうかそうかと適当に相槌をうっている。グラスを空にすると、面白がるように新しくどんどん注いでいく。

 

「いいのみっぷりだね、どんどんやっちゃってよ。今日はお姉さんがおごってあげよう」

 

 酒も入ると口も滑らかになり、ためこんでいたものを吐き出していた。

 

「旅の途中、ことあるごとに幼馴染ちゃんの話ばっかりしてたのに。逃がした魚は大きかったみたいだね」

 

「そうだよ、お菓子作りが趣味で、裁縫も得意でよくオレの服もつくろってくれたりしてさ。あんなの絶対いい奥さんになるだろ……。ところで、ずいぶんとおもしろそうに聞いてるな?」

 

「そりゃあ、他人事だからね」

 

 落ち込むほどにけらけらと笑いだす。何事にも軽い調子で、こういう話はしやすい相手だった。

 こいつとは旅の途中、遺跡の中で出会った。金のにおいがするといってついてきて、旅の仲間は四人となった。

 

「今ってさ、ヒマなわけだよね?」

 

「まあ、そうだな。王様からの申し出も断っちまったし」

 

 王都に帰還したとき内々の話として、貴族位をあげるから国に仕えないかと打診された。

 あのときは、幼馴染のことで頭がいっぱいで速攻で断った。どっちにしろ、ただの村人だった自分が貴族なんて居心地がよさそうに思えなかった。

 

「じゃあ、ちょっと手伝ってくれない? 旅の途中でいくつか遺跡に立ち寄ったでしょ。あそこにまだお宝のにおいが残ってるんだよね」

 

 魔王への旅の途中、過去に存在した都市を寝床として利用したことがあった。人の気配がないただの廃墟に見えたが、シルフィは興味深そうにしていた。

 

「お宝っていうけど、あんな廃墟の中をさがしてなにかあるのか?」

 

「魔法使いちゃんからお駄賃がもらえるんだよ。昔の魔王について調べてるんだってさ。あそこも過去に魔物に滅ぼされた街のひとつらしいからね」


 シルフィは他の仲間であるリーリャとマホを、『僧侶』『魔法使い』と職業名で呼んでいた。オレのこともいまだに『勇者』と呼んでいる。

 

「ん? おまえマホのやつと連絡取り合ってるのか?」

 

「そーだよー。今回の調査も彼女から頼まれたものだしね~」

 

 意外だった。旅の途中、シルフィとマホが言い合いをしてはリーリャがなだめるという場面をよく見ていた。といっても、子供の言い争いのようにシルフィがからかっているだけだったが。

 

「ついでにいうと僧侶ちゃんとも会ってるよ。彼女、キミに会いたがってたよ」

 

 別れ際に『一度孤児院に遊びに来てください』といわれたけれど、あれは社交辞令じゃなかったらしい。

 

「おまえら、仲いいんだな」

 

「そりゃあもう、何度も死線を一緒にくぐればねぇ。かたーい絆で結ばれるってもんですよ」

 

 そういえば、女3人で固まって話しているのを見かけたこともあった。話題に入ろうとすると女だけの話だといわれ追い払われた。ちょっと疎外感。

 

「もちろん勇者さんのことも同じ位に思ってるよ」

 

「そりゃよかった」

 

「反応うっすいな~。もっとイチャイチャしようぜ~」

 

 抱きついてきて酔った顔でほおずりをしてくる。

 いつもだったらここでマホが引き剥がしにくるが、今日は自力で脱出する。

 

 けらけらと笑いながら、盗賊は杯を傾ける。つられるようにこっちの酒も進んでいく。

 

「……シルフィ、今日はありがとな」

 

「なんですか? お礼ならお金でいいですよ」

 

 素直な反応が戻ってくるのは期待していなかったのが、まあいいかと肩をすくめる。

 

 

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