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4話 トレイサー・サキとサポーター・ユウリ

 王都の住人はもう安全な所へ逃げたみたいだ。

 まあ王都の方は完全に魔物に占拠されてるけれど。


「さっき、近衛の人が魔法が効かないって言ってたよね。どういうことなんだろ。」


 ユウリが疑問を私に問いかける。

 正直言ってわたしに分かるわけない。

 そういう時は少し考える素振りだけして、わたしは基本的にこう答える。


「ユウリ、1発適当な魔法ぶっぱなしてみたら?相手になんで通用しないのか分かるかもよ?」


 やってみれば分かるでしょ、というニュアンスの返事をしておくのだ。…まあ、返答的には間違えてはいないでしょ。


「…サキってさ、たまにとんでもないこと言うよね。」

「ぶっ飛んだスポーツやってるからかもね。とりあえず、わたしはフリーランがてら、体術スキルが通用するのか試してくるよ。」


 そうユウリには言っておき、わたしは王都の建物へと走り出す。

 さっき男を撃退したみたいに戦ったらなんとかなるでしょ。


「待って!サキ!」

「うおっ!?何!?」


 が、1歩を出す前にユウリにとめられた。

 盛り上がってきたとこなのに。パルクール的に。


「それはわかるけど、靴!王子に会うから正装するって言って、いまヒールでしょ。」

「あ、そうか。……でも、わたし靴持ってないよ。」

「アタシ魔力いっぱいあるのよ?運動靴くらい作れるっしょー?」


 何を言ってるんだこの幼馴染は。

 魔法の世界とはいえそんな都合よく作れないでしょ。


「そーれ。」


 …が、この幼馴染はとんでもないことをしてくれる。

 目の前に展開した魔法陣の中心から閃光が生まれ、その光が消えた後、そこには元の世界で履いていた運動靴が生まれていた。


「…このチートめ。」

「うるさいよ体術チート。」


 変な言い合いはよそう。

 出発したわたしは街を見回し、走りながらルートを構築する。

 すると、角柱が2本向かい合っている建物を見つける。

 屋根まで続いているようだ。


(…柱と柱の間は1mとちょっと…。いけるね。)


 片方の柱に足をつけ、柱を押すように足に力を入れて、向かい側の柱へ飛ぶ。

 それから向かい側の柱に足をつけ、もう一度押すように足に力を入れ、飛ぶ。

 壁キックを繰り返すことで、上に登る。ステータスのおかげか、体に疲れが全くない。


「最高の体だ。」

「相変わらずすごいなぁサキは。…して、わたしは自分の魔力が如何程か、試してみますかね!!」


 ユウリは魔物が固まっているところに向けて手を構え、魔法陣を展開する。


「どの魔法にしようかな〜……。決めた!『ザルニーツァ』ッ!!」


 ユウリが呪文を唱えると、閃光が魔物に向かって走り、巨大な稲光を発生させた。

 魔物はどうやら反射の魔術を唱えていたようで、魔法陣が出現していたが、キャパシティの限界のようだ。

 魔法陣にヒビが入り、最後には砕け散った。


「ギャアアアアアアアアア!!!?」

「グギャアアアアッ!?」

「オオォォアオオ!?!?」


「うっへー……。自分の魔法のせいだけど、阿鼻叫喚だなぁ……。まさか相手のガードを突き破るとは思わないでしょ。」


 魔法を使ったのを近くで敵を蹴散らしていた王子がみていたようで、ユウリに近付いてきた。


「魔力の大きさから既に察してはいたが……。まさかここまでとは。君は一体何者なんだ?反射魔法を貫くほどの威力を出せるだなんて……。」

「ふふ、先程も申し上げましたとおり、タダのメイドでございます。」


 ユウリはニコリと笑い、頭を下げる。

 恭しい態度ではあるが、どこか誇らしげだ。


「だとすれば、最強のメイドだな。…ところで、サキはどこへ?」

「お嬢様はアタクシの高燃費な魔法では危険な場所の敵を倒しています。今はあの辺りの屋上を走っているのではないでしょうか。」

「ほう、あの辺りの屋上を……。ん?()()……!?」


 あ、王子に見られた。

 まあいいや。しかし王子は遠くからでも金髪が目立つな。

 前方からゴブリンが持っている棍棒で殴りかかってくる。

 それをフロントフリップで避け、その高くなったジャンプ高度とフリップの回転を生かし、ゴブリンの体を蹴飛ばす。

 魔法が効かないといっても、体術スキルは関係ないようだ。

 スキルのおかげでフリップ系やジャンプ系の高度が上がっているおかげなのか、前宙もバク宙も非常にやりやすい。


「魔法もなしにあれまでの跳躍を……。あれが体術スキルなのか……!?それに、駆け抜けながらすれ違う敵を薙ぎ倒している。」


 王子はサキの身体能力に驚きを隠せない。

 いや、それよりも()()()使()()()()()()()()()()()()事の方が彼にとっては衝撃なのかもしれない。


「…お嬢様はスキルを使わずともあのような動きはできますよ。さすがに高度や跳躍の高度や戦闘技術は下がりますが。屋上をあのように走るのであればお嬢様は1級かと。」

「そんなばかな…。ははっ。…サキのメイドよ……。」

「ユウリとお呼びくださいませ。」


 王子の目の前にいる、サキの専属メイドは自分の名を名乗り、再び頭を下げる。

 そんなメイドに王子は微笑む。


「ユウリ……。僕は、君の主人がもっと気に入ったよ。」

「…そうですか。王子、次の敵陣が来ましたよ。(ま、当の本人はその気無いんだけど。王子には悪いかな。)」

「ああ。ユウリ、魔力が多いとはいえ、無理はするなよ。」

「承知致しました!」


 王子は再び剣を構え、魔物へ向かっていく。

 ユウリはもう一度自分にインフォをかけ、覚えている魔法を見る。


(…お?意外とこの魔法とか……。サキのと組み合わせればいい動きができるんじゃない?)


 2人がなんかわたしを評価してた頃、わたしはわたしで大変だ。


「わたしの一切武術をやってないパンチでもスキルのおかげで敵は倒れてくれるからいいけど……!」


 ……あまりにも敵の数が多すぎる。

 一応、バトル的な動きはスキルで補正されている。

 その為、壁さえあれば壁キックするだけで、そこまで意識していないのに蹴りが繰り出されるのだ。

 だからわたしはパルクールの動きだけに集中すればいい。

 でも、相手からの攻撃は別だ。

 目の前にいたゴブリンは杖を持っている。

 魔法を使う個体のようだ。


「っ!炎の魔法……!」


 高い位置に繰り出されていたわけじゃないので、この火球はサイドフリップで避けられる。


「ってやば!?服燃えてる!?」


 どうやら服の方はパルクールに適している服ではなかった。

 伸縮性は良かったんだけどなぁ……。


「って違うわ。伸縮性があるんじゃなくてドレスだから足に余裕があるだけだわ。もー!服の方忘れてたー!!」


 靴を変えてもらうついでに服も変えてもらうんだった……。

 王子に会うということで、無論靴だけでなく、服もそれなりのドレスを着ていたのだ。

 …しっかりとサイドフリップをする時に裾が火球についちゃったみたいだけど。

 ユウリと王子にもその叫びが届く。

 王子は何を言い出したのかよく理解できていない顔、ユウリは妙に納得きた顔だ。


「サキー、今水かけるからじっとしてなさーい。」

「ユウリ!早く!!それなりに熱い!!」


 ユウリから水魔法を掛けられ、事なきを得た。


「いや事なきを得てないから。しっかりとアンタのドレスの裾燃え尽きたからね。」

「ドレスだってこと忘れてたよ。」


 でもま、1回燃えたら気にすることもないか。

 服を燃やされたので、お返しと行こう。

 まずは、移動スキル『ハイプレッシャー』でゴブリンとの距離を高速で詰める。そして、そのままの勢いを確実に身体から拳、拳から相手へと伝える!


「吹っ飛べ!!!」

「ギャアアッ!?」


 ゴブリンは腹に伝えられた強大な物理的衝撃に耐えることは出来ず、抵抗もできずに数メートル吹っ飛ぶ。

 体術スキルの『発勁(はっけい)』だ。

 インフォでスキルを見ていたところ、その拳を突き出す際、身体から拳に伝える際に出るエネルギーのロスをゼロにして相手にくらわせる技なのだとか。

 正直に言うと私は『発勁』を最初読めませんでした。スキル一覧にこの文字が出てきた時にはなんて読めばいいのかと。


「サキ!後ろ危ない!!」


 ユウリからの声と殺気に気付き、身体を下げる。

 どうやら後ろに回り込まれていたようだ。

 巨大な棍棒を持ったオークが手下を連れて来ている。


「いやー、当たると痛そう.......。」


オークは棍棒を構える。

振り下ろしてくるようだ。


「うおっ。」


地面に勢いよく振り下ろされた棍棒を避ける。

轟音を立て、地面に当たった棍棒は、固い石造りのや音を貫いている。


「.......痛そうじゃない、死ねるねコレ。」

「絶対当っちゃダメよ、サキ!」

「うん、死ぬ気で避ける。」


オークと言っても身体の見た目は人間と変わらないな。

.......スキルを活かしてスキをついて重い一撃を食らわせてやろう。

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