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3話 体術スキルに全振りだった件

サキは令嬢ですが、令嬢する気はありません。


ユウリとパルクールっぽいことが出来るならばなんでもいいと考えています。

 体術スキルに全振りとはいえ、ここまでとは思わなかった。


「サキ、使える魔法インフォしかないじゃん……。」

「全振りってレベルじゃない。」

「でも、アタシは魔法に全振りって感じだよ。サキみたいに体術スキルなんかひとつも無いし。」

「…ひとつくらいなんか魔法らしい魔法を使いたかった。」


 口を尖らせて不満を漏らす。

 魔法の世界で魔法が使えないのは損した気分だ。

 だけど、体術スキルのお陰で普通じゃ信じられない動きをできたのは気持ちが良かった。

 木を使った壁キックで捻りまで入れてるのに数十メートルも飛べたり、そのままの勢いで相手にあんな勢いの蹴りまでできた。アメコミヒロインになった気分だ。


「キャプテン・ア〇リカ的な感じの?」

「せめてキャプテン・マー〇ルの方にしてくれない?」

「何のこだわりなのそれ……。でも、戦ってる時のサキ、本当にカッコよかったよ。パルクールしてる時のサキと同じ顔してた。」


 さっきも言われたがどうやらわたしはパルクールのことになると目がキラキラして仕方ないらしい。

 まあ、それは否定しない。


「…というか、第1王子に呼ばれるとか、この世界のわたしは一体何をやってるんだろうね。」

「別にそんな悪い話でもないんじゃない?アタシのラノベ知識でいえば、実は許嫁だったりとか。」

「ないない。わたしはタダのしがないトレイサーだよ?」

「この世界では体術スキルに全振りしたガルフォード家の令嬢だけどね。」

「だからそんな言い方ないでしょ。」


 のびた男を道の端っこに寄せておき、わたし達は王都の中に入る。発展している街だ。

 それに広い街だし建物の高さもいい。高低差もある。

 建物と建物のスペースも広すぎず狭すぎない。


「…サキ、顔。さすがに緩みすぎ。」

「ご、ごめん。」


 顔が緩みすぎていたことをユウリに窘められ、顔を戻す。

 すると、目の前から軍服を着た男性が近付いてきた。


「お待ちしておりました、サキ=ガルフォード様。」


 なんか、フルネームで言われるとちょっと違和感あるな。


「そんな小さいことをお気になさらないでくださいお嬢様。」

「ふふっ(笑)」


 唐突なユウリからのお嬢様呼びに笑ってしまった。

 身体の後ろでユウリから腕を抓られる。


(メイドらしくしてんのにあんたって奴は……!!)

(悪かったから!痛い痛い!!)

「お、御二方、い、如何致しましたか?」

「な、なんでもないですよ。」

「そ、そうですか。それでは、城にて王子がお待ちですので。ご案内致します。」


 案内の少し後ろをわたし達は着いていく。


「サキ、アンタ怒るよ……!?」


 ユウリに小声でキレられた。


「ご、ごめんって。ホントに不意打ちだったの。」

「アタシだって頑張ってるんだから頼むよサキ……。」

「うん……。」


 ユウリは怒ると厳しい。

 いつもは優しくてテンションの高い子だけど。

 基本静かは私とは違う。小さい頃から遊んでいて、感情を好きに出せるのはユウリだけだ。


「サキ様。こちらで王子がお待ちです。」

「ユウリ、一応ついてきて。メイドも入れて構いませんか?」

「ええ、構いません。」

「畏まりました、お嬢様。」


 王都にあるリュート国の城。

 その応接間の大きな扉を開ける。


「失礼致します、レックス様。」

「ようこそサキ。突然呼び出してすまなかった。」

「いえ、わたくしをまた呼んでいただき、ありがとうございます。」

「ふふ。とりあえず、座ろう。サキとは話したいことがある。ご両親も来てくださっているぞ。」


 へ?両親……?なんで!?

 ま、まあ話が始まればわかるだろう。

 するとユウリが後ろから声をかけてくれた。


「サキ、自体が掴めるまでは自分から口を開いちゃダメよ。」

「…わかった。ありがと、ユウリ。」


 王子から、いや、わたしの両親と王子の間でどんな話が始まっているのかは分からないけど、とにかくわたしもその話とやらに参加しよう。


「来たか、サキ。」

「…お父様。」

「サキ君、まあまずは落ち着いて座りたまえ。」


 わたしに座ることを促してくれたのは、王子の隣に座る、恐らく、王子の父。リュート国の王であるアレグザンダー=リュートだった。穏やかな性格で国民からはアレク王という愛称で呼ばれており、本人もそれを気に入っている。


「ありがとうございます。失礼します。」

「さて、ガルフォード殿。我が息子、レックスとガルフォード殿の娘様、サキ君との婚約についてだが……。」


 婚約……!

 正直言って、前のわたしは知らないけど、転生したわたしはあまりしたくない。

 この世界でまだ、フリーランしてないから。

 王子の嫁になってしまったらトレイサーとして自由に活動できないよ。

 というか心の準備もできてねぇしほとんど初対面だぞ!!


(うわぁサキ結婚したくないって顔に思いっきり出てるよ……。あの子基本クールだけど顔には出やすいんだよね。)


 ユウリはわたしの考えていることをすべて読んでいた。

 目線でちょっと怒られたから気付いた。


「ガルフォード家の令嬢ともあれば、魔力も素晴らしく、才能豊かなお嬢様なのだろう!!」

「え……?え、ええ、うちの娘はとても優秀です。とはいえ、リュート国の王子であるレックス様にうちの娘を嫁にいただけるとは、わたくしどももとても嬉しく思います。」


 うっわァァァァ最悪だ!

 ()()って言った!!

 体術全振りなのに!!転生初日でなんかピンチだ!!

 この世界のわたしの家没落させちゃうよ!!


「ちょ、ちょっとあなた!サキは……!」

「サキ、君はどう思うんだ。君さえ良ければ、僕は構わないが……。」

「あ、あの、レックス様……。」

「なんだ?」

「…何も言わずに、わたしにインフォを掛けてください。」

「?分かったが……。」


 王子はそれなりに魔力があるらしく、わたしにインフォを唱え、わたしのステータスを見た。

 その顔は驚愕に染っている。


「サキ……。」

「お父様も、お母様も、ご存知ですよね。自分の娘なんですから。陛下、申し訳ありません。わたしには魔力はほとんどありません。魔法適性は限りなく0と言っていいでしょう。」

「な、なんだと……?」

「も、申し訳ありませんアレグザンダー様!嘘をついていた訳ではありません!我が娘が誠実に育っているのは事実です!ですからどうか!!」

「ガルフォード殿……!」

「お待ちください父上。彼女は見たことの無い体術スキルを持っています。」

「レックス!!この国、いやこの世界がどのような世界か知っているだろう!!この世界は魔法至上主義!!婚約の際に魔力が関係する程なのだぞ!それなのに魔法が使えぬ妃など……!!」

「ですが……!」


 やばい。混沌としてきた。

 父さんは土下座してるし、母さんは涙を流してるし、王子は王を説得してるし、王は怒ってるし。

 王子はなんか体術スキルに全振りでもいいみたいなこと言ってるけど……。


「いやそもそも結婚したくない。」

「言わないの。口に出さない。」

「ユウリ、口調。」

「誰も聞いてないよ。」


 すると突然応接間の扉が勢いよく開いた!!


「アレク王!!魔物の大軍がこちらに向かってきています!!」

「何!?軍隊で撃破は出来ぬのか!?」

「そ、それが、魔法を弾く謎の力がありまして……!こちらの魔法がほとんど通じていないのです!!」


 ま、魔物!?

 そんなのもいるのこの世界!?


「サキ、行ってみようよ!私の魔法も試してみたいし!」

「こんな時でも楽しそうだなあユウリは……。いいよ、行こう!!」

「ちょ、サキ!どこに行くんだ!?」

「?魔物の大群の方に行こうかと。」

「き、危険だ!!魔法が通じないとはいえ、魔法も何も無い君が行くなんて!!」


 レックス王子、優しいな。


「レックス様は…、優しいですね。でも、わたしは試してみたいんです。レックス様がインフォで見てくれた、体術スキルを。」


 この言葉は嘘じゃない。体術スキルとパルクールの動きを組み合わせればもっと面白い動きが出来ると思うからだ。


「ならば、僕も行こう。許嫁にそんなことはさせられない。僕の妃に傷1つ付けさせない。」


 いやだからそもそも結婚する気がないっての。

 あ、これを言うと前世を思い出す前のわたしに悪いな。

 でも、転生した目的はそもそもトレイサーするためだし。

 ユウリと二人でパルクールをしたいだけだし。


「レックス様、お気をつけくださいね。」

「ああ、もちろん。」


 そう言うと王子は腰に剣を差し、応接間から出ていく。

 さあ、わたしも行こう。


「ま、待つんだサキ君!魔法の使えない君がどうするんだ!」


 次は王にとめられた。


「アレク王、大丈夫です。わたし、()()()()()()()()()。」


 そう言い残し、わたしはユウリと王子の後を追いかけて行く。


「一応スキルを確認しよう……。」


 とりあえず、この世界のわたしはステータスがほとんど体術スキルに全振りしてて、基礎的な身体能力も高い。

 筋肉の強さもスキルで底上げしているみたいだ。

 で、わたしがさっき男に食らわせたのは高い位置と捻りを組み合わせたことによる高い威力の攻撃が『ヘヴィブレイク』。

 そして、縮地法みたいな感じで高速に動けるのは『ハイプレッシャー』。

 …色々パルクールのトリックと組み合わせるだけでも充分戦えそうだ。


「お、サキ、来たね。」

「うわー、意外といるなぁ……。」

「ちょっと待て、君はメイドだよな?」


 この王子は次はユウリに絡んできたぞ。


「え?そうでございますが……。」

「ならば何故そんなに魔力が高いんだ!?そんな量の魔力なら、魔導師、いや、賢者になれるぞ!?」

「そうなんですか。…でも、アタクシはメイドです。サキ様を支えることが、アタクシの仕事ですから。」

「…ははは!サキ、君は素晴らしいメイドを持っているね。」


 そう言うと王子は敵陣に向かっていった。


「何だったんだ……。」

「アタシ、賢者ほどの魔力があるんだね。」

「魔力全振りと体術全振り。いいコンビだね。わたし達。」

「ふふ、頑張ろ!サキ!」

「うん。」

王子に口説かれまくりですがサキにそのつもりは無いし、恋愛小説を書いてるつもりは無いんだけどなんでこうなってるんだおい。


魔物大軍を撃退した所で序章終了という感じですね。

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